他の項目でも書きましたが、何事も覚えることの順番は守破離の順番が大切です。
まだ何も身に付いてないうちから自分らしさを出そうとすることほど野暮なことはありません。
極論ですが、私はこのクラシックスタイルでは、自分らしさを無理やり出す必要はないと思っています。伝統的なスタイルを学び、それに則った装いをすることが何よりも格好よく美しいからです。

不思議な話ですが、BERUNでも、BERUNらしさとは何か？？と聞かれると、考えてしまうかもしれません。
なぜかと言いますと、わたしは伝統から学んだものを現代に落とし込み、それを一人一人に当てはめていくことに注力しているため、その途中に私らしさというバイアスを”意識的に”かけることは不必要だと思っているからです。

それでは法則に則った人たちが皆同じような佇まいになるかというと、決してそうではありません。どこのテーラーで作っても同じスーツになるかというと、至極当然そうではありません。その方の生まれ育った環境、人となり、染み付いているものが、その人の雰囲気を作り出しているからです。
つまり、100人が同じネイビーのスーツを着ていても、皆、見え方は違って見えます。

究極、自分らしさというのは、出そうとするものではなく、自然ににじみ出てくるものであり、それ以上の要素は不要なのです。

装いを極めることは人格を磨いていくことにつながるというところは、そういう部分にあります。

つまりBERUNも、作り手であるわたしがわたしらしさを出そうとするのではなく、自然に出てくるものがBERUNらしさとなり、意図的に作り出しているものはない、ということです。
自分らしさとは意識的に出すものではなく、無意識レベルで出てくるものです。基礎を磨き、型を覚えることが何よりも大切です。術に手を出すのはまだまだ先の話です。
ネクタイの結び目にしてもそう。スポーツのフォームにしてもそう。全て基本はありますが、一人一人いざやってみると全く違う形になります。

ネクタイはこう結ぶと格好良く見える。マフラーはこういう巻き方がある、自分にはこういうチーフが似合う、などというような小手先のファッションに惑わされずに、基本を学ぶことが何よりも大切です。

質実剛健なクラシックスタイルは、小手先の、パッと見格好よく見える軟派なファッションとは異なります。クラシックスタイルの世界に足を踏み入れたいと思われたのなら、中身を磨くことに全力で愉しんでいただきたいです。
そしてしばらくすると、その方が流行を追い求めるよりも、何倍も愉しいということに気付くと思います。だからクラシックファッションは知れば知るほど、奥が深く、果てしないのです。

形から入ることは悪いのか?

たまに、形から入る事は良くないという方がいらっしゃいますが、わたしはそうは思いません。
もしそれがわるいということであれば、生まれや育ちによって人生は決まってしまいます。士農工商の時代ではありませんから、今は自分が本当に送りたい人生を送ることができる時代です。

このメンズテーラードの世界は、実際はファッションとは縁遠い世界です。
表面的な飾り立てたファッションを楽しんでいるようでしたら、いつまで経っても本質に近づくことはできません。

まず、形からでもいいので、テーラードのスタイルを着てみるということをやってみていただいたいのです。
そうすると、今までの自分ではない何者かになれます。そのときから、世界の見え方が少し変わることを感じていただいたいのです。
その変化を感じていただけたら、今までの自分の行動と、少しずつ変化していくと思います。
たとえばわたしで言いますと、20歳のときに初めてオーダースーツを着用したとき、
「この身なりの人は、ファストフード店には行かないな」
と、まず行かない場所を決めました。
すると、自ずと在り方が変わっていきます。

厳密に言いますと、初めて購入した百貨店のスーツのときは、そういった変化はありませんでした。なぜなら、その百貨店のスーツは、何もわからない自分があれこれ決めて作った”デタラメスーツ”であったため、大きな変化を感じることはありませんでした。
その後、今の師匠の元で仕立てたスーツを着たときに、はっきりとした意識の変化がありました。
仕立て屋に行くということは、洋服を仕立てるだけではなく、学びに行くというプラスアルファの教育の場でもあるということを実感した時でした。

テーラードは、ただファッションを楽しむということではありません。
その人の人生をより良いものにしていくことができるのが、本当の魅力です。

テーラードの世界は、見た目だけを楽しむファッションには気付くことができない、真の価値があります。

最終編集 2023年4月