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第1章 洋服の哲学
日本のフォーマルウェアの現状
国民のスーツ着用率が世界で一番多いのは、なんとこの日本なのです。ですが、ほとんどの日本人が、スーツをビジネス、自身の鎧としてではなく、学生服の延長線上のような気持ちで着ているように私は感じます。
着なければいけない、仕方ないという気持ちで着ていては、愉しく、正しく着こなしたいという欲求も育っていきません。
餅は餅屋という言葉があるように、テーラーやショップスタッフは、御用聞きではなくプロフェッショナルです。
お客様よりも知識があり、より鮮明にイメージをつくりあげることができる人たちです。プロはお客様の話をしっかりヒアリングし、見合ったものをつくりあげていくことができます。そういった由来から、「Bespoke(ビスポーク)」という言葉が生まれました。ビスポークとは、「Be-spoken=話し合って作るもの」という言葉が、ひとつになりできた造語です。
日本では、ビスポークとオーダーメイドが同義語のように扱われていますが、実は根本の発想が全く違います。
Bespokeビスポークは、”互いに話し合い”、1つの物を作り上げていくことをいいます。それに対しオーダーメイドは、お客様が店側に”オーダーをして”、作ってもらう(メイド)ことをいいます。一見同じように感じますが、考え方が全く違うものなのです。
昔の人たちは、上司や目上の人から知識を教えてもらう機会があったため、お店の人は御用聞きスタイルでも問題なかったのかもしれません。 しかしお客様が正しい知識を学ぶ機会を失ってしまった現代、雑誌やネットで見た不明確な知識しかない、という人が増えてきました。正しいルールがわからず、流行りと表面的な格好良さだけを頼りに誂えたスーツが、正しく美しい仕上がりになるでしょうか。昔から続く日本の御用聞きスタイルの売り方では、残念ながらよいスーツは生まれにくい時代になってきています。
余談ですがわたしがイギリスにいたころ、知り合いのテーラーが、「なぜ日本のテーラーはあんなに無口なんだ?」と話していたのを思い出しました。テーラー自らが先導して提案していくヨーロッパは、店側のスタンスに合わない偏ったこだわりは受けないというプライドをもっています。そのため、生地選びからデザインまで、店側が先導して提案していきます。お客様はそれにゆだねる。お互いに、自分は何をするべきかを知っている証だと思います。
もしご自身が多くを知っていたとしても、それは一度おいてみて、まずは信頼のおけるプロにゆだねてみるのはいかがでしょうか。
(最近では英国サヴィル・ロウも低迷しており、そういった注文を受けるようになってきています。ただ、自社が望んでいないスタイルを希望した場合は、明らかに仕立てる側の力の込め方が変わります。それも、人が作ることの特徴だと思います)
日本ではここしばらく続く流れで、わかりやすいデザインスーツが多く見受けられます。「ボタンや裏地が妙に派手」、「袖の切羽(袖ボタンの縫い糸)の色が変わっている」など。若い方は一見華やかそうに見えるので、格好いいと思うかもしれません。しかしこういった軽率なディテールに泳がされてはいけません。スーツのことを正しく解釈していない人たちが安易に考えた発想です。横目で流して、慎ましくいる姿勢が大事です。
若い方ならまだしも、ある程度人生経験を重ねてきた人が、このようなデザインスーツを着ているのを見かけると、気持ちも装いも若いまま大人になってしまったのかな、と少し残念な気持ちになってしまいます。
味わい深い男性たちはみな、早い年頃からスタンダードを学び、それを礎に年輪をかさねていくことで、ほかとは一線を画す魅力的な男性になっていきます。若いうちに真の洋服とは何かを考えずに、表面的な格好よさを追い求めた洋服にお金と時間を浪費していまっていては、味のある男になるのは必要以上に時間がかかるでしょう。それに気がついたときから、“男っぷり貯金”をするつもりで、日々の装いを意識してみてください。
最後にこれは強く言いたいのですが、スーツ着用率の高い日本では、「肩幅がぴったり」で、「ウエストのシェイプが綺麗に出ていて」、「お尻がしっかり隠れる着丈の長さ」である時点で、街中では”いい意味で”違和感が生まれます。つまりそのレベルのスーツを着ていれば、それ以上着飾る必要はないのです。
自らの趣向と近いテーラーを探すのがいいでしょう。
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