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第1章 洋服の哲学
大切なのはプリンシプル
よくお客様とお話ししていますと、このようなことを話される方がとても多くいらっしゃいます。
「お洒落は難しいので私にはわからない」
この言葉、とても分かります。事実、わたしも10代のときからファッションにはほぼ全財産を注ぎ込んできたにもかかわらず、30代に差し掛かる頃まで、お洒落は難しい。と思いこんでおりました。
しかし、そんな迷いから抜け出すことができたわたしから一言お伝えさせていただきますと、着こなしというのはとても簡単で、シンプルなものです。
ファッションを難しくしているのは他でもなく、ファッション業界です。
たとえばこんな店があったらどうでしょう。
ショッピングをしようと思い、買い物に出かけます。とある店に入ってみましょう。
その店内には流行りの洋服はなく、ベーシックなものばかりが並んでいます。
店員さんとまず話し合いをします。そうしてしばらく話していくうちに、店員さんが、「私に任せてくれませんか?」
と聞いてきます。そうして提案された洋服が、いつの時代も変わらない、普遍的な全身コーディネートだとしましょう。
「この洋服があなたの装いの始まりであり終わりです」
そんな店があったら、わたしだったら胸を打たれます。しかし残念ながら、商業的にやっていくことは難しいです。
ファッション業界の人たちで、現代の大御所の方々は皆さま生粋の服好き(服バカ)です。その方たちから言わせてみれば、現代の店の中に並んである洋服の多くは、納得のいく物ではないかもしれません。しかし彼らは、会社を経営するため、「売れる」ものを作るしかないのです。
たとえば流行はまさにそうでしょう。自分が好きでも似合う色でもない色を、毎年雑誌やメディアに勧められます。
シルエットに至っても、その方個人の体型やキャラクターは全て無視で、ビッグシルエットが流行っているだの、スキニーが流行っているだの、好き勝手発信しています。
そこに耳を傾けていたら、どんどん日々の洋服を考えることが難しくなっていきますし、流行という名の荒波に飲み込まれてしまいます。結果、気がつけば色とりどりで様々なシルエットの洋服だけが残り、次の時代には何も残らない、負のワードローブがクローゼットを支配することになります。
料理が得意な方も、味付けはとてもシンプルだと語ります。
一流の人は、物事を難しく捉えません。
だからこそ、時代が変わっても美しい、格好いい、美味しいものを作り出すことができるのです。
ポイントは、何が必要で何が必要でないのか、その取捨選択をうまくできている方が、何事においてもセンスがいい人だとわたしは思います。
あらゆる業界、世界に通じることですが、突き詰めると、全ての原理原則はとてもシンプルです。
他の項目でも話していますが、ジャケットに関しましては、お尻が隠れる長さのものを選び、ウエストが綺麗にシェイプされているもの。
スラックスに関しては、丈は靴にしっかりと付いている長さ。座っても苦しくないほどよいゆとり。余裕のある股上。
これらのルールを守るだけで、誰よりもお洒落になれます。
テーラードにおいては、まずハズさないこと。これが一番大切です。何かデザインを入れたくなったり、形を変えてみたくなったりする衝動は、すべて化学調味料に舌がやられてしまったものだと考えてみてください。(たまには人間として、そのような刺激も必要なこともありますが)
自然の塩、醤油の味付けに慣れてきたら、シンプルで無口な着こなしが何よりも深く潔く、格好いいものだということを感じることができると思います。
センスのある人、ない人の違いとは
センスのある人ない人、これを一言で言い表すのはとても難しいものですが、私なりに考えた今のところ行き着いた言葉でシンプルにお話ししますと、それは”主義に基づいているかどうか”だと思います。
ここで例えばの話で、センスのない人を申し上げるのは大変心苦しいですが、わたしは車のロゴに何か別なデザインのステッカーやシールを貼り、装飾を付け加えているような人は、一目見てセンスがないなぁ、と感じてしまいます。(Toyotaのマークがデビルになっていたりするのをたまに見かけますね笑)
それは、車のメーカーが命をかけて考えたロゴを、自身の安易な発想で手を加えてしまっているからです。
センスのある人というのは、物を作った人に対するリスペクトがあります。
作り手がどのような思いを持って作ったのかということを誰よりも汲み取ることができ、それをどのように料理をすれば良いかというもののバランスが取れている人のことを、センスのある人だとわたしは思っています。
これがまさに、白洲次郎が言っていたプリンシプル(原理原則)ということなのでしょう。彼はやはり卓越したセンスの持ち主だったのですね。
センスはどうやって磨けばいいのか
それではセンスはどうやって磨けばいいのかと言いますと、これまたシンプルすぎる話ですが、センスのいい人と会う時間をとにかく増やすことです。
「おいおい、そんなことわかってるよー」という声が聞こえてきそうです。笑
「ダイヤモンドはダイヤモンドでしか磨けない」という言葉がありますように、人も同じことです。美しい気持ちの人と一緒にいれば、自分も自然にそうなっていきます。
センスのいい人とずっと一緒にいれば、自分が今までやっていた取捨選択の仕方が徐々に変わってきます。
簡単な例を挙げます。周りの人がみんな肘をついてご飯を食べているとしましょう。その中で自分だけが背筋を伸ばして、凛として食事を続けることができる人がどれだけいるでしょうか。
反対に、周りが背筋を伸ばして凛と座っている中、自分だけが肘をついて、膝を上げて食事をできる人はどれだけいましょうか。その中で無礼ができる人は、肝っ玉が座っているのではなく、ただ今までの人生の中で、大切なことを教えてもらう機会に恵まれてこなかっただけです。
自分を引き上げてくれるかどうかは、周りの環境がとても大切です。
そのためにも、誰と出会い、誰と付き合うかで自分自身の人生は大きく変わっていきます。
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