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第4章 トラウザーズ
紳士の必需品ブレイシーズ
スーツにはベルトではなく、「ブレイシーズ」を着けていただきたいです。ブレイシーズは「サスペンダー」のことで、英国ではブレイシーズ、米国ではサスペンダーと言われています。今では装飾的な意味合いが強く感じられるブレイシーズですが、実はとても機能性に長けている便利なアイテムなのです。
このブレイシーズは1787年頃登場し、トラウザーズの普及と共に一般化していきました。当初は実用的な目的で使われていましたが、時代の流れで装飾的な意味合いが強くなっていきました。トラウザーズのウエストラインを常に一定のラインに維持することができるため、腰骨まで落ちる心配もありません。このトラウザーズとベストの重なりが多ければ多いほど、理想的で美しいシルエットを生み出します。
ブレイスは締め付けるという意味で、ブレイシーズはその複数形です。
はじめの頃のブレイシーズは、バックスキン(レザー)の乗馬ズボンを身体にフィットさせるための、まさに締め付ける道具でした。
現代のブレイシーズの使い方に近いものは、それよりも100年以上前に生まれた”ギャロウズgallows(絞首刑という意味もある)”と呼ばれたもので、労働者がゆったりとしたズボンを履くときに吊り上げていたものです。
ギャロウズは文字通り「ぶら下がる」という意味です。
ギャロウズは背中がY型ではなく、H型のデザインになっており、その後18世紀にはX型にクロスする形へと変化していきました。
現代の形であるY型へと変わっていったのは、1850年頃と言われております。
現代の素材はエラスティック(ゴム)やポリエステル系の素材が主ですが、初期のものはシルクやサテン生地が使われており、自ら装飾を施したり、恋人に刺繍をしてもらったりと、見せないものだからこそ、その人ならではの個性を楽しんでいたものでした。
クラシックなスリーピース・スーツは、トラウザーズの股上を深く(高く)とります。腰ではなく、へそに近いウエスト部分で履き、ブレイシーズで吊り上げます。トラウザーズの股上を深くし、ベストの丈を短くすることで、”目線を上に上げ”、スタイルをよく見せることができるのです。
スリーピーススタイルが基本になりますと、上の写真のように、トラウザーズにベルトループを着ける必要がなくなります。トラウザーズを”履く”のではなく、”吊る”スタイルになります。そうすることで、ウエストにゆとりをもって作ることができ、ベルトを使用するときよりもストレスなく履くことができるのです。また、上から吊るためタックも綺麗に”立ち”、トラウザーズのラインがとても綺麗になります。
ベストがなくなりツーピーススタイルが一般的になり始めた頃、あらわになったブレイシーズを排除し、ベルトに変わりました。その後、美しいラインが出なくなったためタックが無くなっていった、という流れがあります。
ジャケットやベストを脱いだときにブレイシーズが見えてしまうのは、当時は絶対にマナー違反であり、それに伴い徐々にベルトが市民権を得ていきます。
ブレイシーズはシャツの上に着け、その上にウエストコート(ベスト)を着るため隠れてしまいます。そういったことから、昔の方々はブレイシーズを下着だと捉えていました。好きな色柄を自由に選んで、自分だけのお洒落を楽しんでください。一見シンプルな装いだけれども、ブレイシーズには柄が入っている、という自分なりのおしゃれを愉しむのも、このアイテムならではです。
ただ、フォーマルなモーニング・コートやイヴニング・コートに合わせる場合は、真っ白なブレイシーズを選び、ディナー・ジャケット(タキシード)には黒を選ぶのがフォーマルの基本的なルールです。
横幅が細ければドレッシー、広ければカジュアルな印象を与えます。
ブレイシーズにもサイズがあります。長さを調整する金具の位置が、胸に近いところで留まる物がちょうどいいサイズです。海外の物の場合、西洋人の体格に合わせて作られているため、日本人には長い物が多いです。英国の「アルバート・サーストン」というメーカーが、王道でクラシックなブランドです。
ブレイシーズはクリップで留めるタイプと、ボタンで留めるタイプがありますが、クラシックなものはボタンで留めるタイプです。トラウザーズに6箇所(前が内側に4点、後ろが2点)薄いボタンを付けてもらいましょう。姿勢も矯正され、何より内に秘めた自分だけの愉しみに酔いしれることができるブレイシーズは、男のクラシックスーツには欠かせないアイテムのひとつです。
最終編集 2024年5月
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