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第11章 その他
ツイードの魅力
ここでようやくわたしの大好きな生地、ツイードについて話すことができます。
Tweed(ツイード)はスコットランドで生まれた生地です。夏でも冷たい風がふき、突然強い雨が降る、日本とはまったく違う天候をみせるスコットランドでは、ツイードという素材が生まれたのは生きるための知恵でした。ツイードは元々、漁師の作業着として使われていた生地です。
荒天のなか育った羊の毛は、独特の質感となり、油分をたっぷり含んでいるため風雨に強く、他の生地とは一線を画した素材感が魅力的で、昨今見直されてきている生地です。
<Harris Tweed Jacket>
元々ツイードは土地の言葉で、はじめは「Tweel(トゥイール)」とよんでいました。
当時のペンのインクは滲みやすく、字が読みづらかった。1825年頃の話ですが、ロンドンの生地商に伝票を付けて送った際、間違えてロンドンの担当者がTweedと読んでしまったそうです。ここからツイードという名前が生まれたと言われています。諸説ありますが、冗談のような本当の話です。
他には、イギリスにあるツイード川という川からとったなど、様々な由来がありますが、最初の話は英国の生地卸売業の現地の方から直接聞いた話ですので、信憑性はかなり高いと思います。
ツイードが一生ものとよばれる理由としては、着れば着るほど風合いがよくなり、味わいが出てくるからです。他の生地とは違う、ツイードにしかない魅力があります。スーツはどんなに質実剛健な生地で仕立て、大切に何十年と着たとしても、生地が薄くなり破れてきてしまうと、どうしても着続けることは難しくなります。これは、スーツは社会性を表す名刺のようなものだからです。しかしツイードは元々作業着から伝わってきたものであるため、着古すほどにその人の人生を投影するような魅力がにじんできます。
”ダッフルコート”や”アランセーター”なども、はじまりは漁師たちの作業着です。穴が空いたら紡いで直す。生真面目にお直し屋さんに出す必要はありません。最愛のパートナーに手仕事で直してもらうのがいいのです。ツイードのエルボーパッチ(肘当て)は元々、穴が空いたら付けるアップリケでした。これをはじめから付けるのは、紳士のやることではありません。今ではファション性として見直されているディテールですが、はじめから付けるのはあまり得策ではありません。(かくいうわたしも、そういったジャケットを数着持っています。由来や理由を理解していれば、着ていても安心感が生まれると思います)
本場英国、上流階級の教育を学んだ男で、白州次郎という人がいました。彼自身の終の住処「(※)武相荘」に来た友人が、仕立てたばかりのツイードジャケットを次郎に見せにきたそうです。それを見た次郎は、
「ツイードなんてのは軒先に2,3年干しておいてから着るものだ」
と言ったそうです。
有名な話ですが、真偽のほどはわかりません。ですが、そういった話が言い伝えのように広がるということは、白州次郎が生粋の洒落者であったということであり、またツイードとは本来そのように着るもの、という正しい着方を言い伝えのように指し示してくれているのだと思います。
(※)武相荘=白州次郎が1943年に鶴川に移り住んだ自宅の名称。当時の鶴川はまだ田舎で、”武蔵”と”相模”の間に位置する地に因み、武相荘と名づけた。
数年前に、「ハリスツイード(Harris Tweed)」という最も有名なツイードのブランドが100周年を迎えたことを皮切りに、世界的にツイードブームがきています。クラシック回帰の影響もあり、多くの人が冬になるとツイードを着ているのが目にとまります。これがブームで終わることなく、文化として根付いていってほしいものです。また、ツイードをおしゃれ着としてではなく、日常着のように自然に着ることができるようになれば、洒落者であると思います。
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