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第9章 オーバーコート
トレンチコート
普段使いもでき、男として生まれたからには格好よく着こなせるようになりたいと強く憧れを抱いてしまうのは、「トレンチコート」ではないでしょうか。
トレンチコートはもともと軍用の衣服として登場しました。
ここでは、トレンチコート誕生前の話から進めます。
スコットランドのチャールズ・マッキントッシュは、2重の布の間にゴムを入れて1枚の生地にするという加工を1823年に完成させ、特許を取得しました。(これが現在のマッキントッシュクロスです)
時が経ち、1851年にロンドンのリージェントストリートに開業したアクアスキュータムは、1853年に天然繊維ながらも、雨を弾き、かつソフトで着心地の良い防水生地を完成させました。
クリミア戦争でこのアクアスキュータムのレインコートは活躍をしましたが、防水性としては、完璧とは言えるものではありませんでした。
ゴム引きのマッキントッシュのコートも重く、晴れの日は内側から群れるという欠点もあり、どちらも完成されたコートというところまでは行き着きませんでした。
1835年にイギリスのサセックスで生まれたトーマスバーバリーは、すべての天候に対応できるレインコートを作るため、研究を重ねて、1888年についにギャバジンのコットン生地を完成させました。
ギャバジンは気温によって繊維が伸縮するため、夏は涼しく、冬は暖かいという特性を持っていました。
また防水性も高く、湿度によって目が詰まり、水滴が内側に染み込まないという、かなり性能の高い防水生地の仕上がりでした。
このトーマスバーバリーが開発したコットンギャバジンのコートが、第一次世界大戦の塹壕(トレンチ)で戦う兵士に供給されたのです。このことから、トレンチコートと名付けられました。
その後、アクアスキュータム社とトーマスバーバリー社の2社によって、トレンチコートは製造され、その後の戦争でも着用されるようになりました。
このトレンチコートのデザインは、イギリス軍からの要望を取り入れて作られております。

8つボタンのダブルブレスト。ショルダー部分には、水滴を通さないように生地を2重にし、ショルダーフラップをつけました。

また背面にはより防水性を強化するべく、ヨークを付け、肩周りは動きやすいようにラグラン袖が採用されました。袖口には手首へ水が入らないように細いベルトがつけられ、調整ができるようにしてあります。
水筒や手榴弾などをぶら下げるために、腰のベルトにはDリングがつけられ、肩の部分には肩からかけた荷物がずり落ちないように、エポーレット(肩章)がつけられました。


また、襟の内側にチンストラップがついており、襟を立てて、このストラップのベルトを止めれば、強風の時にも首元を守ることができるという、とことんまで機能に特化したデザインがつけられています。
タイロッケンコート
このトレンチコートの原型となったコートがタイロッケンコートというものです。
このコートは、前部分にボタンがなく、腰の帯ベルトだけでウェストを締めると言うシンプルなコートです。
また、エポレットや袖口のベルトもなく、トレンチコートのデザインを極限まで省いた、シンプルなデザインのコートです。
トレンチコートとはまた違った男ぶりを感じるコートです。
なぜトレンチコートは市民権を得たのか
機能性を追求したトレンチコートが戦後には銀幕のスターたちに着られるようになり、市民権を得て、一般の人たちが着るようになったのです。
この当時は、新しい情報を得るのには映画がうってつけでした。
映画の中に、最新のファッション、トレンドが表れていたのです。それを当時のスターたちが着ているわけですので、魅了されないはずがありません。

有名ですが、「カサブランカ」という映画で颯爽とオーバーサイズのトレンチコートを着ていた、主役のハンフリー・ボガードのあまりの格好よさに、世の男女は陶酔しました。このとき着ていたトレンチが「アクアスキュータム」のものであり、形もシルエットもほとんど変わらず、いまだに根強い人気を誇っているキング・オブ・トレンチコートです。
ステンカラーコートやトレンチコートのような“アンファッショナブル”な洋服を格好よく着こなせる人が、やはりおしゃれな人なのだと思います。

<Trench coat Wool 100%>
トレンチコートのおすすめの買い方
今も昔も、永遠の定番で売られているトレンチコートですが、私は古着で探すことを勧めております。
なぜかと言いますと、トレンチコートは、くたくたになってからが格好いいからです。
また、新品でアクアスキュータムやバーバリーを買おうとすると、今では20万弱ほどしますが、古着で探すと、2〜4万円ほどでたくさん出回っているということからも、古着屋リサイクルショップでサイズの合うものを探す方が賢い買い物だと思います。
元々軍の支給品だったことと、昔の人たちはスーツの上に制服のように着ていたこともあり、球数がとても多いのです。
古着で買ってからでも、余裕で30年以上着ることができてしまうのが、トレンチコートの素晴らしいところです。
わたし自身、ベージュとカーキを1着ずつ持っていますが、どちらも古着屋で購入したものです。
トレンチを格好良く着こなすためには
トレンチコートはどんなコートかと聞かれると、私は一言で、「不良が似合うコート」と答えるかもしれません。
なぜかと言いますと、トレンチコートをかっこよく着こなしている人を思い浮かべてみていただきたいです。
ハンフリーボガード、アランドロン、ジャンポールベルモンド。。etc
思いつく限り、王室関係の人たちは出てきません。出てくる名前はほとんどが名俳優たち。
アランドロンが1970年代に入り、ただの二枚目俳優から実力派俳優へとシフトしていった頃、彼が作中で食事をしているシーンがありました。
その食事のシーンは、名家の人からすれば、育ちの悪さが露呈しており、アランドロンに貴族の役なんかできるはずがないという人たちの声があったそうです。
そんな貴族の役では風当たりが厳しかった彼ですが、いざトレンチコートや、カジュアルなファッションの着こなしとなると、とても格好良く着こなしてくれました。
名家よりも一般市民が似合うコートというのは、我々にとっては心強いコートですよね。
また、トレンチコートほど新品が格好わるいコートはないでしょう。
1年生のランドセルと例えたくなりますが、そのレベルではないほど、新しいトレンチコートというのはなんだか滑稽に見えてしまいます。
学生の頃、おろしたてのバスケットシューズは部員のみんなに踏まれて柔らかくする、なんていう話を聞いたことがありますが、それは洋服を着る上でも必要な儀式ではないかと思うのです。
有名な話ですが、フレッドアステアは、仕立てたばかりのスーツを必ず自宅の壁に数十回投げつけてから着下ろしたそうです。
そうすることで、できあがったばかりの堅い雰囲気がなくなり、くたっとして良い雰囲気になるということから、そのようなことを行っていたと聞きます。
(そういった理由のほかに、彼はスーツと自分の主従関係のために投げていた、なんていう話もあります。嘘か誠かわかりませんが、時代を感じますね。笑)
カサブランカ
トレンチコートを語る上で有名な映画といえば、最初にもご紹介した言わずもがなの永遠の定番、「カサブランカ」です。
人生の酸いも甘いも知り尽くした役柄を演じるハンフリー・ボガード。そのような人の痛みが分かる人間がはじめて着こなすことができるコートだと思います。

この映画を観ると、トレンチコートを着て、傘を差すというのは滑稽極まりないと思えてしまいます。
汚れて、濡れてこそ活きる洋服です。
日本の雨はしっとり重たく降るので、傘を差さない場合はびしょ濡れになってしまいますが、そのくらいの方がトレンチコートはいいだろう、と思わせてくれる魅力があります。
元々トレンチコートは塹壕で戦う兵隊のために渡されたものですので、手荒に使う方が映えるのは間違いありません。
いぬ

フィルムノワールの傑作「いぬ」。
ジャン・ポール・ベルモンド(以下、JPB)が演じるシリアンのトレンチコートの着こなしが本当に素晴らしいです。
JPB、本当に素晴らしい役者ですよね。男として惚れてしまいます。
彼の出ている作品は、映画の良き時代のものが多いので、ぜひ色々ご覧になってみてください。
わたしがこの映画で好きなシーンがあります。
JPBが札束を無造作に掴み、それをぐっとトレンチコートの内側に入れるのです。
それをするためには、トレンチコートにたっぷりとしたゆとりがなくてはできません。
イマドキのタイトシルエットでは、札束の厚みで胸が膨らんでしまいますから、格好良くありません。
トレンチコートくらい容量が入るコートもないでしょう。
トレンチコートには、鞄は最低限の方が格好いいのかもしれません。
最終編集 2026年6月
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