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第9章 オーバーコート
トレンチコート
普段使いもでき、男として生まれたからには格好よく着こなせるようになりたいと強く憧れを抱いてしまうのは、「トレンチコート」ではないでしょうか。
有名ですが、「カサブランカ」という映画で颯爽とオーバーサイズのトレンチコートを着ていた、主役のハンフリー・ボガードのあまりの格好よさに、世の男女は陶酔しました。このとき着ていたトレンチが「アクアスキュータム」のものであり、形もシルエットもほとんど変わらず、いまだに根強い人気を誇っているキング・オブ・トレンチコートです。
元々は、第一次世界大戦中に英国陸軍が塹壕(トレンチ)戦用に開発し、採用されたところからこの名前がきています。
これも面白い話なのですが、トレンチコートは19世紀に流行した「アルスターコート」を原型にデザインしたとされ、このオリジナルを開発したのが「アクアスキュータム”A”quascutum」であるのか「バーバリー”B”urberry」であるのか、いまだに両者とも譲らない争いが起きているのです。これを互いの頭文字を取った「AB論争」とよんでいます。
ステンカラーコートやトレンチコートのような“アンファッショナブル”な洋服を格好よく着こなせる人が、やはりおしゃれな人なのだと思います。
<Trench coat Wool 100%>
トレンチコートのおすすめの買い方
今も昔も、永遠の定番で売られているトレンチコートですが、私は新品で買うことはあまりお勧めしておりません。古着で探すことを勧めております。
なぜかと言いますと、トレンチコートは、くたくたになってからが格好いいからです。
また、新品でアクアスキュータムやバーバリーを買おうとすると、今では20万弱ほどしますが、古着で探すと、2〜4万円ほどでたくさん出回っているということからも、古着屋リサイクルショップでサイズの合うものを探す方が賢い買い物だと思います。
元々軍の支給品だったことと、昔の人たちはスーツの上に制服のように着ていたこともあり、球数がとても多いのです。
古着で買ってからでも、余裕で30年以上着ることができてしまうのが、トレンチコートの素晴らしいところです。
わたし自身、ベージュとカーキを1着ずつ持っていますが、どちらも古着屋で購入したものです。
トレンチを格好良く着こなすためには
トレンチコートはどんなコートかと聞かれると、私は一言で、「不良が似合うコート」と答えるかもしれません。
なぜかと言いますと、トレンチコートをかっこよく着こなしている人を思い浮かべてみていただきたいです。
ハンフリーボガード、アランドロン、ジャンポールベルモンド。。etc
思いつく限り、王室関係の人たちは出てきません。出てくる名前はほとんどが名俳優たち。
アランドロンが1970年代に入り、ただの二枚目俳優から実力派俳優へとシフトしていった頃、彼が作中で食事をしているシーンがありました。
その食事のシーンは、名家の人からすれば、育ちの悪さが露呈しており、アランドロンに貴族の役なんかできるはずがないという人たちの声があったそうです。
そんな貴族の役では風当たりが厳しかった彼ですが、いざトレンチコートや、カジュアルなファッションの着こなしとなると、とても格好良く着こなしてくれました。
名家よりも一般市民が似合うコートというのは、我々にとっては心強いコートですよね。
また、トレンチコートほど新品が格好わるいコートはないでしょう。
1年生のランドセルと例えたくなりますが、そのレベルではないほど、新しいトレンチコートというのはなんだか滑稽に見えてしまいます。
学生の頃、おろしたてのバスケットシューズは部員のみんなに踏まれて柔らかくする、なんていう話を聞いたことがありますが、それは洋服を着る上でも必要な儀式ではないかと思うのです。
有名な話ですが、フレッドアステアは、仕立てたばかりのスーツを必ず自宅の壁に数十回投げつけてから着下ろしたそうです。
そうすることで、できあがったばかりの堅い雰囲気がなくなり、くたっとして良い雰囲気になるということから、そのようなことを行っていたと聞きます。
(そういった理由のほかに、彼はスーツと自分の主従関係のために投げていた、なんていう話もあります。嘘か誠かわかりませんが、時代を感じますね。笑)
カサブランカ
トレンチコートを語る上で有名な映画といえば、最初にもご紹介した言わずもがなの永遠の定番、「カサブランカ」です。
人生の酸いも甘いも知り尽くした役柄を演じるハンフリー・ボガード。そのような人の痛みが分かる人間がはじめて着こなすことができるコートだと思います。
この映画を観ると、トレンチコートを着て、傘を差すというのは滑稽極まりないと思えてしまいます。
汚れて、濡れてこそ活きる洋服です。
日本の雨はしっとり重たく降るので、傘を差さない場合はびしょ濡れになってしまいますが、そのくらいの方がトレンチコートはいいだろう、と思わせてくれる魅力があります。
元々トレンチコートは塹壕で戦う兵隊のために渡されたものですので、手荒に使う方が映えるのは間違いありません。
いぬ
フィルムノワールの傑作「いぬ」。
ジャン・ポール・ベルモンド(以下、JPB)が演じるシリアンのトレンチコートの着こなしが本当に素晴らしいです。
JPB、本当に素晴らしい役者ですよね。男として惚れてしまいます。
彼の出ている作品は、映画の良き時代のものが多いので、ぜひ色々ご覧になってみてください。
わたしがこの映画で好きなシーンがあります。
JPBが札束を無造作に掴み、それをぐっとトレンチコートの内側に入れるのです。
それをするためには、トレンチコートにたっぷりとしたゆとりがなくてはできません。
イマドキのタイトシルエットでは、札束の厚みで胸が膨らんでしまいますから、格好良くありません。
トレンチコートくらい容量が入るコートもないでしょう。
トレンチコートには、鞄は最低限の方が格好いいのかもしれません。
最終編集 2023年4月
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