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第3章 ジャケット
腰ポケット
「僕のポケットには車のキイと小銭しか入っていない」
−ケイリー・グラント
上着の腰ポケットは決して物を入れるためのポケットではありません。あまり物を入れすぎてしまいますと、型くずれを引き起こしてしまいます。なるべく入れないようにすることをおススメします。
<アウトポケット>
カジュアルジャケットに多く使われるアウトポケット(パッチポケット)。
イタリアブランドや、アメリカのアイビースタイルに多いディテールです。
最もカジュアルなデザインで、この仕様は本来はシングルのカントリージャケットにのみ合わせられるデザインでした。
今ではスーツの上着にもアウトポケットを使うようになっておりますが、本来はカジュアルなものだということを知っておいていただきたいです。
上着の腰ポケットは水平なものと斜めに切られているものがありますが、これはただのデザイン目的から生まれたものではありません。斜めに切られているものは乗馬服から派生したディテールと言われています。
このデザインはカントリージャケット以外には適しておりません。
<スラントポケット/ハッキングポケット>
斜めポケットは「スランテッド(スラント)・ポケット」や「ハッキング・ポケット」と呼ばれており、馬にまたがっているとき、ポケットに手を入れやすいことから生まれたデザインです。馬にまたがり、前のめりになるポーズを想像してみてください。
前かがみになると、水平のポケットは斜めになり、今にもポケットの中の物が落ちそうになります。しかし「ハッキング・ポケット」であれば、前かがみになればなるほど水平に近づいていくので、物は落ちません。
水平のポケットよりも手をいれやすいということから、フォーマルなスーツには使用されず、ツイード生地などを使ったスポーティなカジュアル・ジャケットに用いられることが多いです。
腰ポケットのフラップの由来は「雨蓋」です。
原則を言えば、室内では中に入れ、屋外では外に出すのが正しいと言われていますが、今はあまり気にする必要はないでしょう。
タキシードなどのフォーマルウェアに初めから雨蓋が付いていないのは、屋外で着ることを目的としていないからです。
このフラップがなく、玉縁のみがついた仕様を「ジェッティド・ポケット」、または「ビーゾム・ポケット」と呼びます。
こちらはポケットの口を縫い付けたままのものが正統な仕様で、これは玉縁が浮いて口が開いてしまうことを防ぐために縫い付けてあるのです。
つまり、このポケットを使おうと糸をほどいたりするのは野暮であり、フォーマルな仕様だからこそ、何も入れることのできないポケットを楽しんでいただきたいのです。
<チェンジポケット>
上着の右腰ポケットの少し上にある小さなポケットのことを「チェンジポケット」と呼びます。このデザインが生まれたのは1890年頃と言われており、このチェンジは「小銭、釣り銭」という意味で、コインを入れることからこの名がついています。また、切符などを入れることから「チケットポケット」とも呼ばれています。その他にも、ハンティングのときに弾を入れるポケットとして使われていたという説もあります。
チェンジポケットは主に英国のスーツに用いられ、スタイリッシュなブリティッシュスーツには欠かせないデザインのひとつです。最近この小さなポケットは、デザイン目的で使うブランドが多いことからも軽視されがちですが、これも一種の古典的ディテールです。そのため現代では、チェンジポケット付きのスーツであれば、ある程度クラシックにまとめなければ軽率な印象をもたれてしまうかもしれません。
上手な着こなしをするためには、ひとつひとつのデザインの由来を知り、自らがそれを選んだ理由を確信することで、全体のコーディネイトに説得力が生まれてきます。ためしにチェンジポケットの付いているスーツを着ているときは、小銭入れを持たずにチェンジポケットに入れるようにしてみてください。こなれ感が出てきて、着こなしが楽しくなるでしょう。
最終編集 2024年5月
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