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第1章 洋服の哲学
あなたに似合う物はあなたが決められる
お客様と話をしていますと、
「わたし〇〇色は似合わないんです」という事をたまに聞きます。
わたしはこのような話を聞くたびに、「人に似合わない色はないですよ」と伝えています。
なぜないと言えるのか、その理由は明確です。たとえば、グレーのスーツをだれよりもかっこよく着こなしたければ、365日グレーのスーツを着て、「自分が最も似合う色はグレーだ!」と確信すればいいのです。
ひと昔前の芸能の方ですが、林家ペーパー夫妻に向かって、
「あなた達、ピンクが似合っていないですよ。パーソナルカラーで言いますと、暗めのブラウンが合いますよ」
と言えるでしょうか。
自分がどういう人になりたいのか、それに伴い、自分の洋服を選ぶことが理想なのです。
パーソナルカラー云々などを信じるのではなく、自分が良いと思ったものを選ぶ。その力強さが何よりも大切です。
ですが、何もかも全くわからない、一切自分では選べない。という方は、少しだけ耳を傾ける程度でカラー診断のようなものの助言を聞いてみてもいいかもしれませんが、全てを鵜呑みにする必要はありません。
色の話ではありませんが、ボウタイ(蝶ネクタイ)を自然に着けられる人になりたければ、毎日ボウタイを結んで外にいけばいいのです。
洋服がまわりの人たちにあたえる影響はとても大きく、早ければ数ヶ月で「○○と言えばあなた」というイメージが確立されます。
有名な話ですが、かの大英帝国を第二次世界大戦で勝利に導いた「サー・ウィンストン・チャーチル」は、自らの装いを徹底することで、周りの人にいい影響をもたらすことを熟知していた人間のひとりでした。
彼は毎日、スリーピース・スーツにホンブルグハットをかぶり、必ずネイビーに白のピンドット柄のボウタイをしていました。そのイメージを確立することで、ネイビーに白のピンドット柄のボウタイを見ると、彼を真っ先に思い出す英国人が未だにいるのです。
歴代の米国大統領が演説のとき決まってするコーディネートが、ネイビーのツーピース・スーツにホワイトシャツ、そして真っ赤なタイという組み合わせです。これはアメリカの国旗を連想させる色合わせであり、視覚的に自らの主張や力強さをアピールするコーディネートなのです。
これを見ている人が多いからか、大事なプレゼンのときは真っ赤なネクタイを着けて挑むといいという話をよく耳にします。分かりやすい方法ではありますが、個人的には個性や面白みに欠けるような気がします。せっかくですから、これからの長い人生、自らのスタイルを新たに築きあげていくことを考えてみてもよいと思います。
そこまで考えてみると、西洋の上流階級の人たちはなぜあそこまで装いに神経をはりめぐらせているのか、わからなくもありません。彼らからしてみれば、「カッコいい服を着てモテたい」という感情よりも先に、「自分という人間を指し示す洋服を着こなせる男になりたい」という、男性としての理想を追い求めているのでしょう。
彼らはわたしたち日本人と違い、女性と一緒に買い物に行き、アドヴァイスをもらうようなことは決してしないそうです。そして、その行為が男性にとって失礼にあたるということも、女性はわかっています。
なぜかと言いますと、ビジネスの場は男性の戦場であるから、どんなネクタイを着けるべきかなど、女性には想像できるはずがないからです。
それが真実なのですが、日本の男性は、買い物をすべてパートナーに任せている人が多くいらっしゃいます。
「わたしはセンスがないので、自分の着る服はノータッチです。妻が全部決めています」
このような人は決して少なくないでしょう。
そのため、落ち着いた重厚感のあるスーツではなく、女性好みの華やかで軽快なスーツが街にあふれてしまっているのです。日本の元首相で、モード調の細いラペルで、光沢のあるスーツを着用し、女性からプレゼントでいただいたかのような可愛らしいネクタイを結んでいる方がいました。日本のトップがそのような格好をしていたのでは、威厳も何もありません。
もし、今時の女の子にモテたいということが目的でしたら、巷にある雑誌を読みあさればヒントはたくさんあります。しかし、男性として品格を高める装いを教えている場所は、そう簡単には見つからないでしょう。
ネクタイの結び方ひとつをとっても、スーツの選び方にしてもそうです。過度なアクセサリーやひと癖あるデザインは、礼節を知らない者だと思われてしまいます。
最終編集 2023年4月
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