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第1章 洋服の哲学
BESPOKEは争わない
テーラーを営んでいる私から、1つビスポークの魅力を挙げるとすれば、それは他人と比べることがなくなる(または極端に減る)ことだと思っています。
巷に溢れるブランド物や高級品は、それを身に付けようと頑張れば頑張るほど、周りを見渡せばキリがないことに気づかされます。
周りにはもっと高級な洋服や物を持っている人がいます。
もっといいものを着たい!もっとカッコいいものを着たい!最新のものを着たい!と、心が休まらず、落ち着きがなくなってしまいます。
最新ファッションに身を包んでいる人が格好よく見え、数年前の洋服はダサく見える。ファッション業界はそのような構図で戦後から今まで発展してきました。
その結果、その流れの早さに辟易してしまい、ファッションなんてテキトーでいいや、と箸を投げてしまった方も少なくないと思います。
ビスポークはそういった世界と大きく異なります。
例えば同席している方が何十万円もする高級なブランドのスーツを着ていたとしても、動じることはなくなります。
なぜなら、真っ当な生地で、自分のために作られたジャストサイズのスーツを着ているということが、その人にとって一番のブランドだからです。
それを着ているときは、誰よりも穏やかになれます。
隣の人よりももっとこうなりたい!という欲求はまるで沸いてきません。
流行や雑誌、SNSなどのメディアに泳がされ続けていると、色々なものを探し回ることにかなりの時間と労力を取られます。
流行やメディアとは一線を引いているビスポークに出会うことで、人生の過ごし方も大きく変化していきます。
私のお客様でも多くの方が、買い物をしなくなった。ファッション雑誌を見なくなった。と仰られます。今までそこに費やしてきた時間を、他の時間に充てることができるのです。
人は隣の芝生が青く見えるように作られています。それは人間の本来持って生まれたものです。
もっと周りの人よりも格好よくなりたい、もっとこうなりたい、と欲求先行型で突き詰めた先にあるのは、終わりのない空虚な世界です。
BERUNで作っている洋服は、シックなものが多いですが、日常的に着るものはシックでシンプルで十分だと私は思います。
日本人として、納豆は毎日食べられるが、フレンチを毎日食べる事はなかなか難しいでしょう。
少し奇をてらったもの、華やかなものは、ベースのものが揃ってからでいいのです。
ビスポークは極論、自分のものである、ただそれだけです。
そして私は、それだけで充分だと思います。
ほかに何かを付け加えようとすればするほど、心が落ち着かなくなっていきます。
なんでもできる、何をやってもいいと、自由を与えられたとき、人間の創造性は下がっていくそうです。
人間という生き物は、何かかしらの制限がある方が、より豊かな発想をすることができるのです。
ビスポークは決して大げさなものではなく、他の何よりも地味なものかもしれません。
流行のような真新しさ、突飛さはなく、あくまでシンプルと美しさを追求しただけのものです。
1つのものを長く着るという考えが根底にあるビスポークでは、何でもできるからこそ、あえて何もしないという律する心が必要なのです。そこに心の余裕が生まれ、人生を生きる上で様々な発想力が生まれます。
私はより多くの人が、自分のためだけに作られたものをまとうことによって、無駄な争い事がなくなると思っています。
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