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第1章 洋服の哲学
誰でもおしゃれができる国
わたしがヨーロッパに行くときは必ず、お気に入りのスーツを身にまとい、トラディショナルなスタイルで街を歩きます。ヨーロッパにいると、驚くほどたくさんの人に声をかけてもらいます。ですが面白いことに、褒めてくれる人はそれほどおしゃれな人ではない場合が多いのです。
ヨーロッパでは未だに階級社会が残っています。彼らは、美しいものを美しいといえる感性をもっているにも関わらず、おしゃれをする身分ではない(する必要がない)という理由で、自らが装うことを諦めているのです。もちろんこれは、「サヴィル・ロウ」や、「ジャーミンストリート」をうろつく中流階級以上の人たちは除きます。身分不相応だと感じている地元の人は、そのような”紳士の聖域”に足を踏み入れることはしないのです。観光客は悠然と入っていきますが、現地の中流階級以下の人たちは、まるでそこに結界が張られているように入ろうとはしません。ロンドンは紳士の街なのでそのような場所が残っています。日本で例えるならば、原宿の竹下通りのような、女子高生や独特のファッション感覚を持った人たちしか入らないというような場所です。
昔聞いたことのある話ですが、「ルイ・ヴィトン」の社長が初めて来日したとき、電車に乗っている女子高校生が、自社のバッグをもっていたことに驚きを隠せなかったそうです。ルイヴィトンのバッグは、それを持つことが許された人だけが持つ、大人のためのアイテムだったのですが、海を渡ったら子供が使っていました。そのくらい、日本ではおしゃれをすることに壁がないのです。
現在、世界中がすさまじい勢いでカジュアル化へと進んでいます。着崩すことは誰にでも簡単にできます。しかし、トラッドスタイルを”誰でも自由に”愉しむことができるのは、先進国の中でも限られた国のみです。階級や治安をひっくるめると、日本だけではないでしょうか。
アフリカのコンゴではおしゃれをして人生を楽しむ、「サプール」という人たちがいますが、彼らにはまだ自由さはありません。わたしもかっこいいと思いますが、ブランド品に身を包み、見た目だけの格好よさを追求している彼らとは、我々は違う美に進んで行く方がいいと思います。
目に見えるほどの階級はなく、一億総人口中流階級の日本だからこそ、できることがあります。クールビズやITブームも落ち着き、ここ十数年はカジュアルの限りを尽くしました。カジュアルに向かっていくことに、本質的なものはあるでしょうか。これからは改めて、トラディショナルなものを見つけ直していく流れがきてほしいと願います。
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