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第11章 その他
餅は餅屋
餅は餅屋というように、わからない分野に関しては、その道のプロに聞く方が間違いのない結果を引き出してくれます。
以前、経営者でもあるとある芸能人のラジオを聴いていて、プロの仕事について話している場面がありました。
彼は、
「プロにお願いする最大の価値は、トライ&エラーをお金で買うことだ」
と話していました。
私はこのことについては常々思っていたので、やはりそうだよなという完全同意とともに、私が思っていたことを、一言でまとめてくれたことにすごくありがたみを感じました。
プロは当たり前ですが、一般の人よりもそのことについて誰よりも考える時間が長く、多くの経験をして、また多くの失敗もしています。
その経験を生かして、お客様に間違いのないものを提案できるのがプロです。
私たちの人生は選択の連続です。
時間という最も価値のあるものをどう活かすかで、人生は大きく変わります。
プロにお願いした方が良さそうだけど、コストがかかるから、自分であれこれやってみよう!
と思い、あれこれやっている間に、プロにコストをかけてお願いをした人たちは、プロの仕事に触れながら、人生を大きく進めていきます。
私のお客様の中でも、店に来られる前に、色々と自分で買い物をしてみては、この買い物はどうだったのかなぁと悩んでいる方が多くいらっしゃいます。
実際にお聞きした、一例を挙げてみます。
Aさんは、良い革靴を買いたいと思い、ネットで調べた中で、このブランドがいいだろうという靴を買いに正規店へ行きました。Jというブランドとしましょう。その靴の値段は160,000円。
買う事にすると、その靴の木型に合ったシューツリーを勧められます。そのブランドロゴの入ったシューツリーの価格は25,000円。
そして”なぜか”、同じ革で作られたベルトも勧められたそうです。
「靴とベルトは合わせた方が格好いいですよ」
と言われたそうです。(疑問ですね笑)
そのベルトは70,000円。(高い笑)
そしてその靴に合う、純正のクリームや、ブランドのロゴが入ったブラシも勧められ、シューケアセット諸々で30,000円。
結果、靴を買いに行っただけなのに、見積もりを見ると全部で30万円ほどの支払いになってしまった。
これは誰がわるいというわけではありません。店側も高額なテナント代のために、1人のお客様に対して単価を少しでも上げるために、あれやこれやと試行錯誤しています。
私はこういった買い物を、情報が少ない人の買い物だと思っています。
(わたしもこういう買い物を誰よりもしてきていて、誰よりも失敗してきています)
では、今の私だったらどのような買い方を勧めるかといいますと、まず、現在の新品の靴は、昔の同ブランドのものと比べて、品質がかなり落ちているにもかかわらず、価格が年々とてつもないスピードで上がっています。この価格とクオリティが見合っていないことを考慮して、少し昔のものづくりが良かったときの靴を美中古で探します。新品に近いクオリティのものを80,000円で見つけたとしましょう。
そして、シューツリーは純正である必要はありません。しっかりとしたものづくりのシューツリーブランドのもの見繕います。約10,000円。
ベルトはそもそも全く必要ありませんが、もし今回と同じメニューで買うとするならば、革のものづくりにとてもこだわっている会社が作っているオーダーのベルトを頼みます。約20,000円。
そして、シューケア用品も純正である必要は一切ありません。クオリティの高いシューケア用品をある程度揃えたとして、合計10,000円。
この時点で12万円。倍以上の価格差が生まれています。
それでいて、現行の新品のものよりも品質の高い、一昔前のものを安く手に入れることができました。
その浮いた18万円があれば、他の洋服を揃えることも可能です。
私はこのような買い方を、知識を持った人の買い方だと思っています。
また、そもそもプロから見ると、AさんにはJというブランドではなく、Cというブランドの方が合うと思うため、そのようにお話をしてみます。
プロの意見を聞いてみると、最初に自分の力で色々と調べてみた結果と全く変わってくることがあります。
中古の靴なんか買いたくないという方もいらっしゃると思いますので、これはあくまで一例に過ぎませんが、プロはあらゆる経験をしてきているので、その人に見合った最適解をすぐに提案することができます。
今のお話はお得に買えるかどうかという話ですが、プロというのは、ガイドでもあります。
普通の人は知らない、行けない場所へ、連れて行ってあげられる人です。
森の奥深く、何もわからない人はすぐに迷子になってしまうような場所も、プロはどこを歩けばいいのかわかります。
そして結果的に、お客様の満足のいく場所へ連れて行くことができ、双方にとってお願いしてよかったという結果をもたらすことができるのがプロの役割です。
私がプロにお願いして、本当に満足のいく結果を味わったとき、「もし自分1人の力でここまでたどり着くためには、莫大な費用と時間がかかっていたに違いない」と感じます。
昔から使われている言葉には、先人の知恵がたくさん含まれています。
俺は俺流でやるぜ!という決断をしてしまった結果、今世では大きな結果が得られず、しぼんでしまったという方は、星の数ほどいるでしょう。
「この分野は私はわからないから、信頼のできるあなたにお願いするよ」
という器の大きさを持つことで、自分一人の人生ではなく、多くの人を巻き込み、みんなで豊かになる人生を得られると私は思います。
色々と聞いた上で、その方にはブランド品ではなく、ビスポークの方がいいという答えを出すかもしれません。
スーツの話になりますと、ビスポークの中でも、ブリティッシュなのか、イタリアンなのか。
ダブルのスーツは似合わないと思い込んでいたけど、そんなことがなかったりします。
シャツの襟の形はどのくらいの開きが似合うのか。トラウザーズのゆとり、ダブルの巾は何cmが自分には合うのか。
スーツは決めることがたくさんあります。それを自分自身で全て合うものを決めることは不可能に近いと思います。
それを導いてくれるのがプロです。
そのことからも、他の章でも書いていますが、御用聞きスタイルは決してプロではないことをご理解いただけると思います。
御用聞きスタイルとは、店側が、
「ラペルはノッチですか?ピークですか?」
「前釦は2つですか?3つがいいですか?」
「ベントはサイドですか?センターですか?」
と聞くスタイルのことをわたしがそのように呼んでいます。
御用聞きスタイルは、店側がリスクを背負わなくて良いのと、店員に教育がなされていなくても、受け答えができれば1着のスーツが作れてしまうことから、日本では一般的なスタイルになっています。
ですが、この御用聞きスタイルでは、最初にお話ししたトライ&エラーの結果は、結局ミスは自分が被ってしまうことになります。
いまやオーダースーツが20,000円台で作れてしまう時代ですが、なぜそれが実現できるのかといいますと、シンプルにその空間に本当のプロがいないからだと私は思っています。
チェックシート方式で、お客様が選んだ項目に丸をつけていき、FAXを送ればいい仕事ですので、その空間にはプロは必要ありません。
より良いものが欲しい、自分ではたどり着けなかったものを提案してほしい。自分の可能性をもっと知りたい。ということをお考えでしたら、分野問わず、私は本当のプロにお願いすることをお勧めします。
その業界に慣れ親しんでいない方が、一生懸命ネットを駆使したり、知人で詳しそうな人の話を聞いたりして、なんとなく行き着いた答えよりも、はるかに精度の高い提案を、ピンポイントで提案するのがプロです。
私が思うプロという人は、寝る時以外、四六時中、そのことを考えていても飽きない、仕事が楽しくて仕方がないという人のことだと思っています。
そのような人に自分が仕事をお願いすると、自分が全く別のことをしている時でも、その人は自分のことを考えてあれやこれやと想像してくれています。私は、そのプロの脳みそ、そして時間を使ってくれていることに、プロの価値があると思っています。
あえて自分でやってみるというのも、ときには大事です。なので、全部を丸投げするのがいいと言っているわけではありません。
ですが、しっかりと対価を支払って、プロにお願いした方が、はるかにスムーズに進みますし、人生もどんどん飛躍していきます。
そういうところから見ても、自分でやりたいという物事は、趣味にするのが良いと思います。
自分で自動車をいじるのが大好きだ。自分でDIYをするのが好きだ。というような方は、それが趣味ですので、プロにお願いせず、自分の生きがいとして楽しむのがいいでしょう。
ですが、今やろうと思っていることが、自分の人生に関わるものであった場合は、私はしっかりと対価を払ってプロにお願いした方が、間違いのない結果になると思います。
最後に有名な話を一つ、フォード社を立ち上げた、ヘンリー・フォードの逸話をいたします。
フォードは学歴がない中大成功を収めたため、マスコミや一部の人たちから大バッシングを受けていました。
「実は彼は何も知らないのではないか。」
そんな噂が広がり、多くの人たちがフォードの足を引っ張ろうとしていました。
そんなある日、フォードはそんな人たちに言いました。
「ではみなさん。いついつ、わたしのオフィスに来てください。そこで、あなた方が聞きたい全ての質問にお答えします。」
これを聞いた輩たちは、フォードの醜態を晒すいい機会だと、マスコミや新聞記者、優秀な弁護士たちを集めました。
フォードの社長室には大勢のマスコミ、新聞記者、弁護士が集まりました。
みんな、意地悪な質問をするぞと待っています。
それに対して、フォードはただ一人でいます。
「それでは、順番に、わたしに質問してください」
フォードのデスクには、一台の電話があるだけです。
最初の弁護士が、自動車の構造について専門的な質問をしました。
フォードは質問を聞き、分かりましたと言い、電話をかけ始めました。電話の相手は、自動車工場の技術者です。
技術者は弁護士の質問の答えをフォードに伝えました。それをフォードが弁護士に答えるのです。
次に、記者やマスコミが次々に質問するのですが、そのたびにフォードはその答えを知っている専門家に電話をかけて答えました。
そして、フォードは言いました。
「みなさんは、わたしを馬鹿だと思っていらっしゃるようだが、わたしは誰が答えを知っているかを知っている。だから今こうして、あなたがたの全ての質問に答えることができる。」
そこにいた全員が、ヘンリー・フォードという男が天才であることを認めた瞬間でした。
“凡人は、全ての答えを知ろうと努力する”
“天才は、誰が答えを知っているかを知っている”
2024年5月擱筆
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