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第11章 その他
衣食住?住食衣?
日本では古くから「衣食住」という言葉があります。これに関してはいつの時代も、「なぜ衣が最初なんだ?」という声はあります。
これは服飾に関わっているわたしだからこそのポジショントークになってしまいますが、わたしはこの順番に強く賛同します。
これに対して、正論で真っ向から「住食衣が正しい」と語っているのが、元フォーククルセダーズの故加藤和彦氏。
加藤氏は音楽のみならず、ファッションや、ありとあらゆるものごとにセンスを光らせた方。
その氏が、住食衣だというのです。
彼の著「優雅の条件」に、このことについて語っている項目があります。
つまり氏が言いたいのは、エルメスのバーキンやヴィトンのバッグを持って、狭く汚い部屋にいるのは間違えている、ということ。
この順番を間違えている日本人がとても多い。
世界ではこんな生活をしているのはありえない。失笑されてしまう。
だから、まずは自分が過ごす空間にこだわりを持ち、それから美味しい食事を食べる。
その暮らしができていれば、あとはシンプルでシックな洋服を持っていれば十分である。
というご意見。
これはわたしも強く賛同します。仰る通りです。
しかし、そもそもこの話は、衣服のセンスがわたしが伝えたいものと大きく異なっています。
わたしはバーキンもヴィトンも欲しいとは思いません。持つべき人が持てばいいと思っております。
わたしはブランドものではなく、上質な革で、丁寧に作られた普遍的な鞄にしか興味がありません。
わたしはこれを踏まえた上で、改めて衣食住だと言いたいです。
なぜなら、住食衣という順番は、今の日本では、限られたごく少数の人しか、この流れを歩める人はいないということ。
若い頃に、まずは住まいだ!となり、住まいにこだわりを持つ若者はどれだけいるでしょうか。
しかも、住まいは衣服よりもお金がかかります。しかも、コロコロ変えるものでもありません。
インテリアもブランドやアンティークなんかに手を出してしまえば、若者はとてもじゃないが愉しむことができません。
ではだからと言って、ニ○リやイ○アで加藤氏が語っているようなセンスが磨けるかと言えば、難しいのです。
つまり、住⇨食⇨衣の順番は、育ちのいい人や、親から、「住まいにこだわるんだゾ」と教えてもらえるような、恵まれた人だけの黄金ルートなのです。
衣・食・住の中で、一番早いうちに、多くの人が興味を持つのが”衣”だと思います。
学生時代、異性を意識して、洋服に目覚めるというのは、多くの人が通る道です。
まず、衣服に興味を持ち、自分を磨くところから男磨きは始まります。
そして、洋服を通じて感性が磨かれていきます。
洋服は一つ一つの価格がそこまで高額ではないため、失敗をしても、大きな痛手にはなりません。
むしろそれは勉強代として、次に活かすことができます。
ソファを次から次へと変えていく人はあまりいないでしょう。
素敵なテーブルを見つけたから、新しいのに変えよう!
と思う方は、熱心な家具好きだけだと思います。
それに比べて洋服は気軽さがあります。
流行りものを追いかけていた最初の頃から、徐々に普遍的なものにシフトしていく感覚。
それを身近に感じていくことができるのが、洋服だとわたしは思います。
そして、素敵な洋服を身に纏ったら、今までは気にならなかったが、テキトーな店に食事に行くのが似つかわしくないと思うようになります。
ではこの洋服が似合う場所に行こうとなり、食べる場所、物が変わっていきます。
そして、衣服と食で美意識が磨かれたあと、住まいの選び方も必然的に変わってくるでしょう。
きっと、◯トリ、◯ケアで十分でしょ。とはいかなくなります。
自分のライフスタイルの純度を上げていくのが、生きるということなのだと私は思います。
そしてこの流れは「住」が最終地点なのかというとそうではなく、わたしの経験からすると、衣食住にはスパイラルがあり、あるときは住、そしてそれが落ち着くと衣、と常に美意識がアップデートされていきます。
そのようにすると、感覚はあらゆるジャンルを通して磨かれていきます。
そして気がつけば、自然と美意識が身についているでしょう。
ありがたいことにこのスパイラルには終わりはありません。どこで自分が満足をするかです。
妥協のない人生を生きたいですね。
2023年4月擱筆
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