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第1章 洋服の哲学
本当のオーダーの価値とは
私の中で、洋服をオーダーする価値は、
「パンツの丈をくるぶし丈で」
「ラペルの幅は7cmで」
「肩幅は内に入るように」
「ボタンの色はこうしたい」
「裏地は自分のテーマカラーで」etc…
というように、サイズや細かなディテールのことを話し合うところにはあまりないと思っております。
上記のような事を他で例えるならば、お医者さんに行って、
「今自分はこういう体調だから、こういう薬を出してほしい」
と言っているようなものです。なんだかおかしな話だと思いませんか?
わたしの中でオーダーをする本当の価値は、自分自身の行動や動きの癖、スーツの中に何を仕舞うのか、そういう生活に関わることをしっかりと話し合い、そこに対するストレスを無くすることが、オーダーの面白いところだと思います。
既製品ではペンポケットの長さや深さが決まっていますが、いつも自分が使っているペンの長さを考えると、本当はあと2cm浅いととても使いやすい。
お尻のポケットには右側にハンカチを入れるだけだから、ハンカチの収まりがいいようにしたい。
というような、もう一押しすれば100点になるのに、というようなことを、密にテーラーと話し合うのです。
欧州の人たちのオーダーは、こういう話し合いが多いです。
サイズはこうしてくれ!裾はダブルで、裾口は18cmで、袖のボタンは5個で、、
なんて言っているお客様はあまりいません。
どちらかと言うと世間話がほとんどで、その話の中でスーツの機能的な話をします。
たとえばその方が毎朝新聞を読んで、カバンに仕舞わず、ジャケットの内ポケットの中に入れたい。
そのような要望がありましたら、テーラーはその方専用のポケットを作ります。
その方の新聞の折り具合、長さにぴったりと合った「ニュースペーパーポケット」を作るのです。
こうして、本当の意味での理想的なマイスーツができるのです。
なんだか、ワクワクしませんか?
わたしは採寸をしたら、そういう話をいつもしています。いつも使っているペンを見せていただいたり、財布の大きさや、名刺入れなど。時計の大きさに応じて袖の長さや広さを調整したりします。
サイズをどうしたいなどは、信頼できるテーラー(お医者さん)に出会うことができれば、わざわざそこに時間と労力を割く必要はないのです。
そのテーラーには得意とするスタイルが必ずあります。
(この業界に限らず、何でもござれ、というようなお店はプロの意識が欠けているとわたしは思います)
ビートルズが好きなら、ビートルズを聴けばいいように、ビートルズに演歌を歌ってほしい!とリクエストするのは野暮の骨頂です。
自分自身と趣味嗜好が合う方との出会いは、人生を豊かにしてくれることでしょう。
自分自身の手間は惜しまない
余談ですが、わたしはスーツのポケットには”あまり”物を入れないようにとお話ししています。
では何も入れてはいけないのかと言いますと、そうではありません。
これは私の考え方ですが、入れてもいいものは、”人様に迷惑のかかるもの”だと思っています。
それ以外の、自分が手間になる物はカバンの中に仕舞う。
という線引きをわたしはお勧めしています。
たとえば人に迷惑をかけるもので言えば、名刺入れが挙げられます。これはお相手様がすっと差し出したときに、カバンの中に仕舞っていたら待たせてしまうからです。
名刺入れは薄くて軽いので、スーツの負担も少ないです。内ポケットに入れておいても何も影響はありません。
では財布はどうでしょう。小銭入れの付いていない薄い長財布でしたら問題ありませんが、2つ折りのタイプや、小銭入れが付いている長財布は、胸ポケットに仕舞うと厚みが出てしまいます。
財布は自分自身がカバンの中から取り出すという手間を取れば全く問題ないので、私はカバンの中に入れることを勧めております。
人が作ってくれることが真の価値
最後に、わたしが思うビスポークのメリットですが、それは何より、人が自分のために考えて、作ってくれたことにあると思っております。
わたしは人に作ってもらったものを多数所有していますが、そのものを持つたびに、
「あぁ、これは〇〇さんが作ってくれたものだなぁ」
と感じます。
そう思うことで、そのものを大切にすることができますし、出来る限り長く使いたいと思います。
今の時代は、ものがいらない、なるべくものを持たないようにする、という風潮が広がっていますが、私はそれは、純粋に良いものが世の中に減ってきたことが要因の1つであると思っています。
(ものづくりのクオリティーが下がってきているという事ですね)
人が考えて丹精を込めて作ったものは、持つたびに豊かな気持ちになりますし、素直な感覚を持った人間であれば、こういうものに囲まれて生きていたいと思うはずだからです。
大多数の人が、ものがいらないという方向に流れている時代に、豊かなものに囲まれて生きている人という生き方、私は素晴らしいと思います。
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