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第2章 スーツ
夏のスーツの選び方
30度を超えてくると、多くの人類はおしゃれをすることを諦めます。
動物が寒くなると冬眠をするように、人間も暑くなるとおしゃれ夏眠をするのでしょう。
ですが、ほとんどの人類がおしゃれ夏眠をする中、熱い魂を持った一部の人間は、気温が体温を超えようと、上着を着るという選択をします。
こちらの章ではそのような気温を超えるような熱いハートを持った方のために書いています。くれぐれも生半可な気持ちで読まないでください。笑
キッドモヘア混スーツ
<Fabric by William Halstead –Kid mohair60%/Wool40%->
生後1年未満のアンゴラヤギから採れる、毛のことをキッドモヘアと呼びます。大人になると毛が太く硬くなるのですが、子供のうちは繊維が細くて柔らかく、非常に高級感があります。
太陽の日差しを受けると強い光沢感を出すため、真夏の暑い日でも見た目の暑苦しさを与えづらいという特徴があります。
また、ウールと比べると繊維自体の持っている保温力が低いため、暑い日でも生地はひんやりとした触り心地を感じさせてくれるのが、キッドモヘアが盛夏向きの生地と称される理由です。
ですが、そんな素晴らしいキッドモヘアにも欠点があります。それは、摩擦に弱いというのと、横の力に弱い、つまり引き裂きが起こりやすい生地だということ。
キッドモヘアの混じった生地は、ウール100%の生地と比べると耐用年数は劣ります。
また、繊維自体の伸縮性がウールと比べると劣るため、硬めの着心地になります。
ですが、それを加味してもキッドモヘアの生地で仕立てるスーツは、25度を超えてきて、夏がやってきたというシーズンに着用すると、非常に爽快感があり着ていて気持ちがいいものです。
リネンスーツ
1+1=2。
夏=リネン。
これは学校で教えるべき方式だと思います。夏はリネンシャツにリネンのトラウザーズがあればOK。ですが、やはりスーツを着たいという方のために、リネンのスーツをご説明しないわけにはいきません。
<Fabric by Spence Bryson -350gms->
ヨーロッパ、主にイタリアではリネンスーツは長らく愛され続けてきました。湿度の低いフランスがカジュアルスーツにコットンスーツを選ぶのに対し、ヨーロッパの中では高温多湿なイタリアはリネンスーツを選びます。
夏は亜熱帯気候になる日本では、5月から10月の中頃まではリネンスーツが大活躍します。
肩パッドや芯地、裏地などは極力省き、なるべく軽い仕立てで愉しむのがいいでしょう。
リネンのスーツを作るにあたって、気をつけていただきたい点がございます。それは、あまり軽い生地にしすぎないようにするということ。
ウールのような動物系素材と比べますと、植物系のリネンは耐久性が劣ります。
夏になると軽い目付(生地の重さ)のものを選びたくなりますが、リネンの場合は重い生地を選んでください。
先にご紹介したキッドモヘア混の生地は真夏であれば240~260gms位の重さでもいいですが、リネンの場合はやはり300gmsは超えていないとハリ、コシがなくすぐにヨレヨレになってしまいます。
もしスーツにするなら、350gms位はあった方が、リネンの風合いを強く感じることができるでしょう。
<Fabric by Spence Bryson -530gms->
私は530gmsという重いリネンでスーツを仕立てましたが、非常に迫力があって格好良かったです。ですが、そのくらい重くなりますと、夏はとてもじゃないけど無理です。笑
春と秋に着るリネンスーツと考えて仕立てました。
春夏秋と3シーズン着るなら、350gms位で程よい肉感があるものを選ぶのがお勧めです。
<Fabric by Un Known>
シアサッカー
<Fabric by Solbiati>

さて、ここで最後にご紹介したいのが、シアサッカーです。
このシアサッカースーツというのは、四季を通して最も着る機会の少ないスーツかもしれません。ですが、暑い夏にこそ映えるスーツであることは間違いないのです。
シアサッカーとは、縦縞で凹凸の畝を作ることで、肌に直接触れる面積を少なくする。そうすることで、ベタつきをなくし、清涼感を与えるという生地です。
そう聞きますと、いいじゃん!と思われるかもしれませんが、シアサッカーは綿、コットン素材なのです。
コットンは春と秋の2シーズンに活躍する生地ですが、保温力はないため、冬は寒い、そして風通しはわるいため夏は暑い、という生地です。
ひと昔前までの日本の夏でしたら、シアサッカーのジャケットは難なく着用できていたでしょうが、連日35度を超えてくるような昨今では、なかなか活躍する場面がなくなってきました。
では綿なのだから、春と秋に着ればいいんじゃない?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、この清涼感あふれる色と柄ですと、春の始まりはまだ気持ちが先走っている。秋はもう色味を落ち着かせたものを着たい。そして夏は暑い。
そうなると、春の終わりから夏の始まりにかけてしか着られないのです。
そんな着るシーンが限りなく少ないシアサッカーですが、年に片手で数えられるくらい、今日この日こそ、シアサッカーのスーツだ!!という日があります。そのような時にバシッと合わせると、これほどまでに気持ちがいい一日はないと思える気持ちになります。
そんな年に数回しか着られない洋服、持っていても仕方がないじゃないか。という声も聞こえてきますが、着物の世界でも、柄や素材の関係で8月にしか着られない和服というのがあるらしいですから、季節を絞って、その時だけ全力で愉しむというのは、とても贅沢な遊びだと思うのです。
そんな時を愉しむ、風情の中を生きる意欲のあるお方に、ぜひお勧めしたいです。
2026年9月 擱筆
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