Table of Contents
第1章 洋服の哲学
全国民がクラシックを学ぶ理由
私がクラシックファッションの世界を知ったのは21歳の時でした。
クラシックファッションに身を投じて十数年が経ちますが、時間が経つごとに、素晴らしい世界だと感動しております。
そして私は、クラシックこそ、日本人全員が知るべきスタイルだと思います。
日本人は、洋服を軽率に捉えている人が少なくありません。
これは、日本人という民族性が関わっているかもしれないのです。
江戸時代には、「ボロは着ても心は錦」という言葉があり、決して表面的には美しくなくとも、内なるものは光り輝いているぞというような意味です。
この言葉はなんとも日本的で、アメリカやヨーロッパには同じような言葉は存在していないと言われています。
ヨーロッパでは、「美服は門を開く」という言葉があるように、この古くから伝わる言葉を比べてみても、それぞれの国レベルで着るものに対する意識が大きく違うことがわかると思います。
クラシックファッションというのは、表面的なお洒落を楽しんだり、トレンドを追いかけるものとは正反対です。
良い服をシックにシンプルに着ることこそ、クラシックファッションの真髄です。
このことからも私はクラシックファッションは、日本人が民族レベルで相性がいいものだと思うのです。
良服は最大の教育である
良い服を着ることで、今までの自分ではない自分になります。
これは「キングスマン」という映画がとてもわかりやすく、そのことを私たちに伝えてくれています。(本当に面白い映画なので、まだ観ていない人はぜひ観てください!)
1作目の主人公”エグジー”は素行の悪い不良でした。(写真の右がエグジーです)
そんな彼は後にキングスマンに選ばれ、サヴィルロウでビスポークスーツを仕立てました。
そのスーツを着た瞬間、彼の中で何かが変わったのです。
今までの不良の自分とは明らかに違う自分が、鏡の前にいるのです。
人間というのはとても面白いもので、着るものが変わると自然と立ち居振る舞いが変わります。そのくらい、着るものには力があるということです。
エグジーは一流のキングスマンを目指すため、あらゆるトレーニングを受けます。知識・マナー・教養、あらゆるものを学びます。
「このスーツを着ている人が、肩肘ついてご飯なんか食べられない」
という気持ちから、自分を磨いていきたいと思うようになるのです。
ここでいきなり私の生まれを話しますと、青森の田舎出身で、パンクロック大好きでラグビーとバンド活動に精を出していた、どこにでもいる、テンプレのような若造でした。
10代はあらゆるファッションを自由に楽しみ、堅苦しい服なんてつまらない、と今の私からするとまるで考えられない奇抜な格好ばかりしていました。
そんなある日、人の繋がりで今の師匠に出会い、クラシックファッションの魅力を存分に聞かされ、「なんだか面白そうだな」と思ったのがきっかけです。
エグジーにとってのコリンファースが、私の師匠ですね。笑
はじめは、「なんだか面白そうだな」くらいの温度でいいと思います。むしろ、初めから沸点に到達してしまうものは、意外とすぐ飽きがきたりするものです。
奥が深いものこそ、本当の魅力に気付くには時間がかかるものです。
まず、最初は形からでいいのです。着ることから全ては始まります。
それを着た自分が、どのような自分だったら理想的だろうか、と想像し、そこに向かっていくギャップを埋めていく作業を行っていきます。
洋服を通じて、自分を磨いていくという流れができます。
これを言うと、
「別にクラシックファションじゃなくたって自分を磨ける服はあるじゃないか」
と思う方がいるかもしれませんが、私の中では、自分を磨くスタイルはクラシック以外にないと言い切りたいです。
なぜかと言いますと、クラシック以外のファッションはクラシックをベースに、改良を重ねてトレンドやわかりやすさを組み込んで作ったものであるため、奥深さではクラシックより深いものはないからです。
私は何事も、源流に近い場所から学ぶということが何よりも価値があると思っています。
茶道が学生にとって良い教育になると判断され、明治に入り女学校の教育に採用されたように、クラシックファッションは、もっと多くの人に知って頂くべきだと私は思います。
社会人になったら、まず本物のスーツの世界を知る。そしてそれに身を包むことで、それが似合う自分になろうと努力をする。
その努力の先に、自分が憧れていた自分像があると思います。
ヨーロッパでは、貴族階級ならこういうしきたりを徹底的に身につけるという立場(ノブレス・オブリージュ)がありますが、日本には表立った階級がありません。
そのため、「大人になるまでに身につけておくべきこと◯箇条」というような、格好いい大人になるための教育の場が少ないのです。
昔の日本でしたら、右むけ右で一定レベル働ける人たちを大量に増やせばよかったのですが、今はそうはいかなくなりました。
クラシックスタイルを知ることで、源流に近い思想や物に触れることができます。
そうすることで、時代が変わっても廃れない、本質的な美とは何かについて探求することができます。
今は物や情報が多くなりすぎてしまいました。そのような時代だからこそ、本質的な美しさに価値を見出せる人は、求められないはずがないと私は思います。
クラシックスタイルを学ぶ、教養を磨くというのは、一朝一夕でできる物ではありません。
時代の流れが早くなりすぎた今だからこそ、じっくりと時間をかけて楽しんで学んでいくということを、多くの方に実践していただきたいと思っております。
2023年6月擱筆
Atelier BERUN
東京都港区南青山5-12-3 小田急南青山マンション 801
- ◆HP :
- https://berun.jp/
- ◆Instagram :
- @berun.bespoke_suit
- ◆Youtube :
- Atelier BERUN
- ◆Blog :
- 伊達男日和 -Dandyizm Life-
- ◆Tel :
- 03-6434-0887