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第11章 その他
一生物の真実
男なら誰しも心惹かれる言葉、一生物。
今回はこの一生物について、私が思うことを書いていきたいと思っております。
ファッション業界の重鎮のような方が、このスーツは30年前に仕立てて云々、、
という話をよく耳にします。
靴に至っても、20年ものだったり、10年以上持っている洋服がたくさんあることを伝えてくれています。
これを間に受けすぎてしまう方がおりまして、
「30年着られるなら安い買い物じゃないか!」
と、盲目的に本格的な洋服を贖う方がいらっしゃいます。
しかしこれは極端にいえば、2割正解なのですが、8割間違いと言っても過言ではありません。
いや、間違いというより、重要事項説明(笑)をしていないのです。
その言葉を真正面に受け止めた方は、「このスーツを一生着るんだ!直して直して着るんだ!」
と信じて、高い買い物をしたが、結局それしか着るものがなく、そればかりを着ているあまり、頑張って着れたとしても10年もてば御の字だろう。となるのです。
まず真実は、30年着ているスーツは、年間通して片手で数えられるくらいしか着ていないということ。
ここにファッション業界の人と、一般の方との解釈に大きな溝があります。
甲子園を目指す高校球児(特にピッチャー)が、高校時代に頑張りすぎるあまり、爆弾を抱えてしまい、プロに行ってからも活躍できずに終わるパターンを我々は何度もなく見ています。
洋服も同じことで、もし一生着ると決めたら、高校球児のように、バリバリ着ることは諦めなくてはいけません。
一生物というのは”ウマイ”言葉で、一言で人を頷かせてしまう力があります。
だからこそ、引力がある言葉には気をつけなくてはいけません。
わたしの店に来られる方でも、「一生物が欲しい」と連絡をくださる方がいらっしゃいます。
それは本当に嬉しいことなのですが、その一生物という言葉を、互いの認識を一致させていかなくてはいけません。
わたしは、洋服を大切にしすぎるあまり、ほとんど着ずに特別な洋服になってしまった!というのは決しておすすめしていません。
どちらかというと、ガンガン着て、直して着る。そしてそれがダメになってしまったら、「ありがとう!」と感謝して、サヨナラする。
そういう付き合い方をしていただきたいです。
はじめの頃に買った良いものは、手入れの仕方もわからなければ、間違えたケアの仕方をしてしまうこともしばしば起こります。
それはすべてポジティブに、経験値を重ねたと捉えて、次に活かすのです。
そしてたくさんの失敗をすることによって、正しいケアの仕方や、正しい着方が分かっていきます。
わたしが思うに、一生ものになりうる洋服は、かなり限られていると思います。
アイテムでお伝えしますと、
①アメリカンな分厚いレザーを使ったブーツ
ブランド例 : WHITE’S、Danner等
②厚地の本革レザージャケット(サイズはジャストよりゆとりがあるもの)
ブランド例 : エアロレザー、ルイスレザー等
③ 厚みのある革でシンプルに作られたレザーバッグ
④カーペットのように堅いツイードジャケット
⑤肉厚な生地で作られたコート
この5つはそうなる可能性が高いものです。
いずれも条件としては、かなり厚みがある生地を使っているということ。
そうでなくては、長い人生、一生付き合っていけると呼べるアイテムにはなり得ません。
わたしも高校生の頃に購入し、いまだに靴棚に入っている靴が一足だけありますが、それは10年近く、実家に置いていて、数年前にまた久しぶりに履きたくなって連れてきたという経緯があります。
なので、16歳のときに買った靴をいまだに履いていると聞くと、
「そんなに長く履けるんですか!」
となるのですが、背景にはそのような裏話が多分に潜んでいます。
雑誌や媒体は目を引くのが仕事ですから、そのような話には文字数を割きません。
「30年ものの洋服が眠るアーカイブルーム」
「まさにヴィンテージの倉庫」
「20代の頃から持ち続けている洋服たち」
など、目を引くポイントだけを絞って特集を組みます。
重鎮の方や雑誌が語る、30年来ている、や一生物、という言葉は、間違えてはいないのですが、一番大切なことを伝えていないのです。
それが一生物になるまでに、たくさんの洋服で失敗(良い経験)をしています。
人は感性が変化、成長していく生き物ですので、その過程でずっと着ていた洋服に飽きることも出てきます。
しかし、人間の成長はスパイラル状に上昇していく構造なので、また近い波数のところに来たときに、「久しぶりにこれ見たけど、今ならもっと格好良く着れそう!」
と、久しぶりに見てもわくわくするものがクローゼットにあると、良い買い物をしたなと言えるでしょう。
一生物と呼べるものは、いつなん時見ても飽きずに付き合える物だとわたしは思います。
2023年4月擱筆
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