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第2章 スーツ
フルオーダー・パターンオーダー・イージーオーダーの違いとは
オーダーにはいくつか種類がありますが、日本ではいまだに曖昧で、ブラックボックスの状態です。
そのため、
「3万円でフルオーダースーツ」
というようなオカシナ広告が世に蔓延ってしまっています。
今回は、私独自の見解で、このオーダーの種類を分けてご説明したいと思います。あくまで私の見解ですので、これが正解!というわけではありません。
ざっくりとこんな違いがあるのかぁ。くらいに思ってください。
まず、高価なものから順番に、
フルオーダー
↓
パターンオーダー
↓
イージーオーダー(カスタムオーダーという場合もある)
となっております。
フルオーダーはなんとなくわかりますが、それ以下の、パターンオーダーとイージーオーダー、カスタムオーダーの違いが曖昧です。
そこについて少し詳しく書いてみたいと思います。
~フルオーダー~
パターン(型紙)をゼロから起こし、その人のために型紙を引き、生地をハサミでカットし、製作をする。
仮縫いを2,3度行い、完成させる。
ゲージサンプルと呼ばれるフィッティングの際に使うサンプルのスーツはなく、メジャーのみでサイズを測る。
直線の生地をアイロンの熱で曲線にし、人の体に沿うように仕上げるアイロンワークも職人技で、フルオーダーの特徴のひとつ。
お客様と話し合い、お互いに納得のいくものを完成させていくスタイル。このことをビスポークと呼ぶ。
いわゆるテーラーと呼ばれる仕事は、フルオーダーの職人のことを指す。
(テーラー=縫う人、カッター=生地をカットする人)
最近の有名な映画で言いますと、キングスマンの世界がまさにこれです。
参考価格は約40万円〜。
ヨーロッパで仕立てる場合は80万円を超える店が多い。
製作期間は約半年〜1年。
~パターンオーダー~
工場、または店が所有しているパターンを使い、スーツの縫製工場で仕立てるもの。用意してあるパターンの変更には限度があるため、極端なシルエットは対応ができない。
この3つの中ではパターンオーダーが最も曖昧で、イージーオーダーとの区別をお客様が付けるのはとても難しい。
パターンオーダーと一言で言っても、各店によるパターンのこだわり具合や、工場の持っている技術は玉石混合である。
例えば、フルオーダー店を営むテーラーが、自らパターンを起こし、副資材を監修し、工場に依頼をして製作するパターンオーダーもあるため、パターンオーダーはわるいと一言で言い切れないところがある。
パターンを使い仕立てるため、そのパターンが自分にとって好みかどうかもとても大切。
詰まるところ、パターンオーダーに限らず、良いスーツに出会うためには店選びがとても重要である。
基本的にはサンプルスーツを着て、どこを直していくかをフィッターとお客様とで話して決めていくことが多い。
仮縫いは希望があれば行う。
参考価格は約8万円〜。
(こだわりのあるパターンオーダーの場合は15万円〜という店舗もある。)
製作期間は約1〜1.5ヶ月。
~イージーオーダー(カスタムオーダー)~
パターンではなく、スリーサイズ、肩幅、袖の長さ、着丈などの数字を入力し、工場に発注をする仕組み。数字を書くだけで作ることができるため、フィッターの技術は高くなくても一応スーツの形にはなる。
数字を元に、機械が自動で生地を裁断する。
極端なシルエットも作り出すことができるが、それが着心地の良い洋服になるかどうかは別問題。
フィッターの腕前がわるいと、こんなスーツ着れたものじゃない!という事故がたまに起こるのがイージーオーダーの欠点。
また、知識や自信がある店員が少ないため、色々と注文を付けても、それはやめた方がいいと言ってくれる店員はほとんどいないと思った方がいい。
あらゆる生地、あらゆる体型の人に対応するため、使う芯や副資材はこだわったものではなく、どんな生地にも対応できるように接着芯を使用することがほとんどである。
機械ができない細かな縫製は人が行うが、コストを抑えるため、基本は流れる作業で製作される。
生地を裁断して縫製するだけなので、サイズは合うが、体に沿うスーツには仕上がらない。
店員は社内教育を受けているが、一般的な知識しか持っていない人がほとんど。
プラスアルファの提案をしてくれることは期待しない方が良い。
サンプルスーツを着る理由としては、店員のフィッティングのエラーを減らすためと、お客様に仕上がりのイメージをしてもらうという2つの理由がある。
裏地やボタン、その他の細かな仕様はお客様に決めてもらうことが多い。
参考価格は約3万円〜。
製作期間は約3週間。
これを見ていただいて、なんとなく違いをお分かりいただけたかと思います。
もちろんこれだけではありませんが、今思いつく項目を書いておきました。
スーツ販売員でも、パターンとイージーの違いを明確にできない人がいるでしょう。
また、パターンとイージーを逆だと考えている方もいらっしゃいますが、それについてはどちらが正しいというのは議論をする必要はないと私は思います。
ここで気をつけていただきたいのが、イージーオーダーの工場を使っているにも関わらず、フルオーダーと謳い、高いお金でスーツを売る店がゼロではないということ。これは特に個人のテーラーに見受けられます。
もしこれを読んだあとに、テーラーと名乗っているスーツ販売員の方に出会い、その方が「うちはフルオーダーです」と言っていたら、少しいじわるかもしれませんが、「ではあなたが型紙を引いてるんですか?」と聞いてみてください。
きっとその方は、一瞬言葉に詰まると思います。
フルオーダーのテーラーは職人です。営業マンではありません。職人と営業マン、顔つきやあり方が根本的に違うと思います。どちらも必要な職業ですが、この違いはしっかりと捉えておかないと、間違えた買い物をすることになる可能性があります。
販売員は営業マンであり、テーラーではありません。物を売るプロからスーツを買いたいか、スーツを作るのが好きで得意な人から買いたいか、ぜひご自身の胸に手を当てて考えてみてください。
仕立てるという世界観を楽しむのがフルオーダー。
ぱっと見でおしゃれなスーツがリーズナブルに欲しいという方はイージーオーダー。
パターンオーダーはその店によって、イージーオーダーレベルの店もあれば、フルオーダーに近いパターンオーダーの店もあります。
私は個人的に、スーツを作りたいという人でしたら、どこに行ってもいいと思います。
テーラーというところは、大人の学びの場であることが多いです。
スーツを作るという1つのきっかけを元に、人生について色々話す場であると思っています。
日本は西洋のように、階級社会ではないため、大人になってから学ぶという場が決して多くありません。
社会人になり、ヨーイドンで始まる大人1年生。そこで何を学ぶかで、その後の人生は大きく変わると思います。
自分を磨くためには、ただ物を贖うという行為に浸るのではなく、その体験にお金を払うことに重きを置くこと。いつの時間も学ぶという姿勢を持つことで、理想の大人の階段を登っていけるのではないでしょうか。
そういう意味では、テーラー(含め、あらゆる業種の提案者)は少し口うるさい方がいいと私は思います。
口うるさいテーラーとは異なり、ショップスタッフは御用聞きです。
お客様をより良い方向に洋服の観点から導いていくことができるのがテーラーです。
この2つは、似て非なるものです。
ご参考になりましたら幸いです。
2023年5月擱筆
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