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第1章 洋服の哲学
オーダーで失敗しないためには
もし、まだスーツをオーダーをしたことがない、または、これから初めてオーダーしたいと思っている、という方がいらっしゃるようでしたら、ぜひこの項目は読んでいただきたいです。
また、オーダーの経験は浅いけれど、知識をたくさん詰め込んできたという方にも、特に読んでいただきたいお話です。
オーダーをするということは、自分の思い通りの物ができると思われるでしょう。実際、その通りです。
ラペルはこうしたい。ベントはこうしたい。ボタンは何個がいい。裏地はペイズリーがいい。タックは無し。裾はダブルの5センチ。
これを自分のやりたいようにできるのがオーダーですが、果たしてそれを全て投げ込んだとき、本当に格好いいスーツができるのでしょうか。
雑誌やSNS、ウインドーショッピングでたくさん勉強されたとしても、それが自分に似合うかどうかまでをイメージしきるのは、素人の方ではとても難しいことです。
多くの方が勘違いしてしまっているのは、ビスポークの最大の価値は、思い通りの仕立てにできるのではなく、自分自身の知らない魅力をプロに最大限に引き出してもらうことができるということです。
わたしの失敗談
ここで分かりやすく、わたしの失敗談をお話しします。
わたしが初めてスーツをオーダーしたのは20歳のときでした。
19歳頃からテーラードに興味を持ち始め、それまでのファッションに携わっていた経験を活かして、意気揚々と某有名百貨店で表地、裏地、ボタン、細かなディテール含め、色々と自分で選んでいきました。
そのときのわたしの基準の1つにあったのは、
「せっかくファッション業界にいたのだから、少し変わった、あまり見かけないスーツを作りたい」
という考えでした。
つまり、せっかくオーダーをするのなら、他の人と被りたくないという安易な発想です。
そこで出てきたアイデアが、
前ボタンを1つボタンにする。ベントはノーベント。袖ボタンは5つ。ラペルはピークドラペル。裏地は玉虫色。
あぁ、自分で書いていて痛々しいかぎりです。笑
わたしはこのようなオーダーの仕方のことを、「オーダー全部のせ」と言っています。
完成したときは何もわからなかったので、自分の思い通りの物ができたと喜びでいっぱいでした。
その後、初めて師匠に会いに行く機会があり、そのスーツを着ていきました。結果、出会って即、酷評されたことは言うまでもありません。
人の感覚は変わり続ける
そのときの自分の理想のものを作っても、人は感覚が変わっていく生き物です。自分を磨いていけば成長もします。1,2年前には自分がワクワクしながら着ていたスーツが、今は着る気が起きなくなってしまうようなものでは勿体ないでしょう。
わたしのものづくりの理想としましては、数年後にようやく馴染んで、本質的な価値を後々でも感じ続けていけるものだと思います。
まず、何事においても、その道のプロフェッショナルがいます。その方々の中で、自分の感覚と近いものを持っていそうな方がいたら、まず任せてみるのがいいかもしれません。
もちろん、自分が学んできた知識は遠慮なくぶつけてみましょう。
家作りでも同じ
わたしはこのことは、自宅を建てるときにもとても考えさせられました。
当時、毎日のように専門書や洋書、建築雑誌を見漁り、知識を多分にインプットしていました。(建築家になるのか?というくらい勉強していました)
お願いした建築家は、施主の言うことは聞かないことで評判の方でした。
わたしが自分の家のデザインや間取りをこうしたい、ああしたい、とおそるおそる伝えると、その方は「ないね」と、一言で一蹴します。
10個提案して、1,2個たまに採用されるくらいでした。
その時は、「誰の家だと思ってるんだ」と怒り爆発で帰路についていたものです。笑
しかし後々冷静になって考えてみると、あのとき設計士が止めてくれたからよかった。と思うようなことがたくさん出てきました。
これが御用聞きスタイルの設計士でしたらこうはいきませんでした。
素人施主が考えたアイデアがそこかしこにちりばめられた、一貫性、ストーリー、説得力のない家になっていたでしょう。
そこからわたしは、常に他の業種に至っては、「何も知らない人」として話を聞くようにしました。
頭に入れるのは知識ではなく、物の本質を見極める力を養うことです。
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