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第11章 その他
ダンディズムとジャポニズム
✴︎前置きしますと、これから書いていく内容は事実ではなく、仮説です。
歴史的観点からのお話を少し書いておりますが、ざっくりとした内容ですので、学びというより、感覚を掴みたいという方のみお読みください。
日本人が西洋の服を着る。
ただこれでは、借りてきたものを着ているだけではないか。
日本人らしい洋服とは何か。
これについて考えたことのある人は数えきれないほどいると思います。
では、洋服に和柄を使えばいいのでは?
そう思った先人たちもたくさんいます。
ですが、それは御法度。ナンセンスなのです。
では、国産の生地を使うのがいいのではないだろうか。
しかしわたし自身、主に英国物の生地を使い、国産の生地の割合は1割以下です。
やはり、スーツの仕上がりの格好良さを比べると、大半の国産の生地は見劣りしてしまうのが現状です。(品質は高いです)
やはりスーツは舶来物、よそから借りてきたものだから、日本人よりも西洋の人の方が似合うのではないか。
そう思う方も多いと思います。
ここまで多様化が進んだ今という時代だからこそ、わたしは改めて、日本人として着るスーツについて考えてみたいのです。
1970年に発行された、当時の仕立て屋が書いた本を見ておりますと、洋服屋として生きていくならば、日本らしいものは捨てるべきだ。と書いています。
演歌や歌謡曲を聴くのではなく、ロックやジャズを聴きなさい。
コーヒーを飲み、喫茶店に行きなさい。ディスコで踊りなさい。
そうすることで、西洋人のマインドに近づき、洋服をもっと格好良く着こなすことができる。
とこのようなことを書いています。
しかしそれから50年経った今、我々は彼ら西洋人に肩を並べられるような存在になったでしょうか。
わたしから見るに、差は多少縮まったように感じますが、埋まることはないと感じています。
彼らは脈々と受け継ぐ西洋式の洋服を当たり前に着ています。
我々は決して当たり前ではなく、特別なものとして着ています。
つまり、彼らがだいぶ前に歩いた轍を、我々が彼らよりもゆっくり歩いたところで、肩を並べられるようになるはずがないのです。
では1970年から50年経ち、改めて、これからわたしたちが向き合うべき洋服との付き合い方について、わたしなりに考えてみました。
これから、西洋の人と、我々の洋服の向き合い方について考えてみたいと思います。
今の洋服の形に限りなく近づいてきたのは、19世紀の頃。
ダンディの申し子、ジョージ・ブライアン・ブランメル(ボウ・ブランメル)がシックな洋服の美を完成させた立役者です。
それまでは、男性は煌びやかな洋服を纏い、女性顔負けな派手な装いを楽しんでいました。
そこに現れたのがブランメル。
彼がモノトーンでシックな着こなしで夜会に現れ、一時代を築きました。
このボウ・ブランメルという男は、今の私たちには想像を超えるほど、装いに圧倒的なこだわりを持っていた男で、洋服を着るだけで午前中が終わってしまうほど、着こなしにとてつもないこだわりを持っていました。
ここで、ブランメルの話を長々とするのは終わりにして、なぜこのダンディと呼ばれる男たちが、それほどまでに装いに命をかけていたのかということですが、その答えが、
ダンディズムとは、究極の自己陶酔である。
という一文に尽きます。
つまり、他人なんかどうでもよくて、俺が誰よりも格好よくありたい。という自分本位を突き詰めた思考なのです。
これは西洋の歴史を振り返ると理解できます。
中世という時代は、決して人間に住み良い環境ではありませんでした。
城下町があり、塀で囲まれ、そこから一歩出ると木がわんさか生い茂り、野生の動物がいて、山賊がいて、いつ命を狙われるかわからない。
そんな時代を何百年と生きてきたのが欧州の中世です。
その時代では、いかに自分が生き抜くか、という生きるか死ぬかの環境でした。
そのため、西洋の人には、わたしがわたしが。
という思想が根付いているのです。
(英語もアイIから始まりますね。私はこう思う。という自己を主張する精神なのです)
そしてその思考を戒めるために、宗教があります。
自戒の念を持つことで、他人に寄り添うことができる。
そのようにして、西洋の人たちは、生きづらい不遇の時代を強く生き抜いてきました。
では同じ時代、日本はどのような環境だったでしょうか。
日本は昔から自然があり、雨が降り、作物が育ち、自然からの恩恵がたくさんありました。
小麦ではなく玄米。
肉ではなく魚。
野菜を食べる。
人を作るのは食です。
日本人の戦前までの食はシンプルで究極の食事でした。江戸時代はゴミが全くなく、すべてが循環された環境だったと聞きます。
八百万の神という考え方があるように、私たちは一神教ではなく、あらゆるものの中に神様がいる。という生き方でした。
◯◯のお陰で生かされている。
私たちは周りにある人やものによって生かされている。という考え方で生きてきた民族でした。
そして日本に深く根付いていた仏教。
まさしく、利己ではなく、利他の精神。
これがわたしたち日本人の本来のあり方なのです。
これが、西洋と日本の考え方の根本的な違いです。
自分で強く生きなければいけない西洋と、生かされている日本。
時代によって、そんな悠長な話じゃない、と歴史家の方は思うかもしれませんが、私なりに、騎士道、仏教、日本的霊性を簡単にかいつまんで感じたことです。
しかし、この考え方は戦後、GHQによって消されてしまいました。
我々の根幹であった、食文化と、宗教が消されてしまったのです。
米文化であった日本でしたが、戦後からは小麦、砂糖、油を大量に摂るようになります。そして天然の塩ではなく、精製された塩を使わせられることになります。
そして我々の根幹であった、信仰することを阻まれました。
今では、
宗教=怪しい。
聞いたことないもの=何それ?宗教?
というように、私たちは宗教と食文化を剥ぎ取られ、生きる柱を削がれてしまったのです。
では無宗教になった今、私たちの生き方はどのように変わったでしょうか。
それが今の日本です。
究極の自己陶酔であるダンディズム文化の西洋には、今も宗教があります。
そのおかげで、彼らは昔から今まで、変わらぬバランスで生きてきていられるのです。自己愛の精神を支える自戒の念。
しかし、わたしたちは信じるものがなくなってしまいました。
つまり、究極の自己陶酔である西洋のダンディズムである洋服の、自己陶酔の文化のみを汲み取ったファッションが、今の日本に広がってきてしまっているのです。
これは洋服だけに限らず、今の日本の由々しき事態だとわたしは思っております。
信じるものがなくなってしまった今、わかりやすく、世の中の多くの人が良いと思っているものを持っておきたい。それによって安心がほしい。
と思う人が増えるようになりました。
それがお金や、流行(ファッションや飲食、あらゆるもの)など。
とりあえずこれをおさえておけば、みんなから一定の評価もらえるよね?
という不安をなくすために、物を買ったり、お金を持つという傾向が増えてきています。
宗教と文化がない今、日本人はお金という宗教に侵されている。
という言葉がありますが、まさしくその通りだと思いました。(お金教、損得教という言葉が生まれました)
信じるものがない今、みんなが羨ましがるものを持っていれば安心する。それがお金です。
ではこれだけ骨抜きにされてしまった日本ですが、改めて、我々日本人がどのように洋服と向き合い、これからの世の中を生きるのがいいか、
と聞かれると、わたしは一言、
「日本人として着ることです」
と答えます。
戦前の日本人が着ているスーツ姿はなぜ格好よく見えるのか?それは簡単で、
彼らは日本人としてスーツを着ていたからです。
何も西洋人に劣っているだの、おれは足が短くて腹は出てて、洋服が似合わないだの、そんなことは至極どうでもいいのです。
これから先、どんなにお洒落を頑張っても、西洋人のようになりたい、と思っている以上、彼らよりお洒落になることは絶対にありません。
「わたしたちは高貴な民族、日本という素晴らしい国に生まれたのだ」
この思いでスーツを着ること。
それがわたしたちに今一番大切な気持ちだと思います。
ナショナリズムを語ることがどう思われるかというのも、戦後教育の賜物でしょう。
わたしはどっちの翼とかは一切関心はなく、ただ、日本人としての誇りを持って生きるということは、現代社会を強く豊かに生きるために、持っておいた方が良いのではというシンプルな思いです。
私が大人になってから、茶道を習い、書道を習っているのは、日本人という民族性に触れたいからという理由です。
よくお客様に、
「竹内さんはブリティッシュですよね」
というように聞かれることがありますが、わたしの中では、ブリティッシュに固執しているつもりはありません。
イタリアクラシコもアメリカントラッドも、アメカジもフレンチスタイルもすべて見てきました。
今まで見てきたもの、感じたことを全てひっくるめて、今のわたしのスタイルですので、簡単に言い表すことはできません。
ですが強いて言うのでしたら、スタイルは色々ありますが、そんなの全部ひっくるめて、
「我々日本人が着るので、ジャパニーズスタイルです」
という境地を築きたいのです。
洋服にリスペクトを示しながらも、借り物のスタイルではなく、自国の文化を重んじるからこそ、見えてくるものがあると思います。
2024年6月擱筆
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