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第1章 洋服の哲学
スナップ写真を参考にしてはいけない
今の時代は何を調べるのにも、インターネット、SNSを使用しますね。もちろんわたしも活用しております。
洋服について何かの名称を入れて調べると、トップにはとても格好いい人たちが出てきて目を引きます。
その人たちの着こなしに惚れ込み、ぱっと見で真似をするのは、わたしはぜひ気をつけていただきたいと思っています。
彼らはインターネット上で目にとめてもらうために、着こなしにほんの少しの違和感を与えています。
たとえば、こちらは一昔前に雑誌で流行った着こなし、ネクタイの大剣よりも小剣を長くする。
ネクタイの結び目をずらす。
シャツの襟をわざと跳ねさせる。
くるぶしが丸見えなほどの短い”パンツ”を履く。(トラウザーズ、スラックスと呼ぶには相応しくないためパンツと呼びます)
他にも色々ありますが、今思いつくのはこんな感じでしょうか。
スプレッツァトゥーラ!
ファッションという言葉が軽率な扱いになってしまった昨今。
自分らしさを出したい、雑誌で見たようなおしゃれな格好したい、もっと遊びたい、外したい、というような考え方で、自分の格好を楽しんでいる方が多くいらっしゃいます。
イタリア語でスプレッツァトゥーラという言葉があります。
それは遊び、、、という意味です。
スプレッツァトゥーラがどういうものか知りたい方は、ぜひイタリア系のファッション雑誌をざっと見れば、どういうものか分かります。
私がこのスプレッツァトゥーラをむやみやたらとやることをあまりよしとしていない理由があります。
これは武道の世界で例えてみると分かりやすいと思いますが、型なしというのは、型を極めたものだからこそできることだからです。
型もないのに、型なしと言っているのは、モノシラズの極みであり、それはものの良し悪しがわかる人にはすぐに見抜かれてしまいます。
スプレッツァトゥーラに学ぶ、大人の遊びとはどういうものなのでしょうか。
この言葉には色々な意味が含まれています。1つ大切なこととしては、その人の遊び方は、その人自身が生み出した着こなしのため、他の人は真似をするべきではない、ということ。
つまり、その1人の人が長い年月をかけて、自分の型を見つけて、自分らしい着方を発明したわけです。
その型の抜き方こそ、その人の個性なのです。
今巷で流行っているハズシなどという着こなし方は、ほぼ全て、イタリア人のファッショニスタたちの生み出したスプレッツァトゥーラと言っても過言ではありません。
スプレッツァトゥーラの代表格としましては、2022年3月に亡くなられた、タイユアタイの創設者フランコ・ミヌッチ氏が有名です。
彼の着こなしは独特で、最初にご紹介した、小剣ずらしや、シャツの襟を跳ねさせる、上着のポケットに無造作に手を入れる。
これらの着こなしを世に広めたのは、わたしは彼だと思っています。
しかし、それをぱっと見て、日本のファッション雑誌が、
「今イタリアではこういう着こなしが流行っている!ファッション界のレジェンドの巧みなハズしテク!!」
というように、本来長い年月をかけて氏が生み出したものを、表面的な部分だけを切り取り、フィーチャーしてしまっているのです。
これにより、その着こなしが全く自分が生み出したものではないのに、その真似事をやってしまうため、周りから見ると間違えた着方をしている。と思われてしまうのです。
これはラテン系のイタリアと、我々日本人の気質の違いもあります。
イタリアでは良しとされている着こなし方も、日本では、「それオカシイヨ」と言われてしまうことも多々あるのです。
わたしがお伝えしたいことは、スプレッツァトゥーラをやるな!!と言いたいわけではありません。
スプレッツァトゥーラというものは、長い年月をかけて、自分自身の性格、ライフスタイル、その他諸々の要因が重なって自然に生み出されるものだということをぜひ知っていただきたいのです。
ですので、ファッションは奥が深いのです。
流行や安物に惑わされて、脇目を振られている時間はなるべく短く済ませておきましょう。
まずは正しい着こなしを知り、それを掘り下げていくということをぜひやっていただきたいのです。
わたし自身、未だにハズシはやっていません。
それが今の自分にとって、格好がわるいことを理解しているからです。
これがもしかすると、60歳を過ぎた辺りには、自然と型なしの着こなしをしているのかもしれません。
それが本当のスプレッツァトゥーラなのです。
演者と一般人は大きく異なる
演者はその一瞬のスナップの格好良さだけを意識すればいいですが、実社会を生きるわたしたちは、写真ではなくリアルを生きているため、根本的に着こなしに対する考え方を切り替えなくてはいけません。
このようなハズシの着こなしをやる場合、周りに納得してもらうためには相当な着こなす力がなくてはいけません。
「この人はあえてこうしているんだな」と周りに思わせる力がなくてはいけないのです。そういう意味でも、ハズシという着こなしは簡単に手を出してはいけないことなのです。
わたしたち一般人が目指すことは、最大瞬間風速の格好良さではなく、常に一定の安定的な美しさを保つことです。
わたしたちが生きる世の中は、ファッションが大好きな人ばかりではありません。むしろその逆の人たちがほとんどです。
ファッションや着こなしに精通していない人が見たときに、「あれ?シャツの襟立ってますよ」、「ネクタイの長さ間違えてないですか?」と言われたら、それはもうお洒落ではないのです。ただの自己満足なのです。
小細工をせず、誰が見ても清潔感があり、凛としているというのが、本当のお洒落な人だとわたしは思います。
最終編集 2023年4月
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