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第13章 映画
炎のランナー
炎のランナー(1982) 英
☆アカデミー賞衣装デザイン賞受賞作品☆
私が最も好きな映画、愛してやまない映画。それがこの炎のランナーです。
言わずもがな、誰もが認める英国ファッションの教科書のような映画。
オープニングのテーマ曲「ヴァンゲリスのタイトルズ」がかかったところから、エンディングまで見落とすポイントがありません。
冒頭からカールトンホテルへと向かっていくシーン。これを観ただけで、イギリス人がイギリスに恋焦がれる映画だと確信します。
一つ目の舞台は1920年代のケンブリッジ大学。学生たちの物語です。
クリケットをしている時のユニフォームに注目しましょう。みなさん白のコットントラウザーズを着用しています。しかも、程よいゆとりでとてもエレガントです。上はチルデンニットに大学共通のネクタイでしょうか。赤と青のレジメンタルタイです。「タイトフィットでなくては格好良くできない」、と思われている方にこそ、ぜひこの時代の映画を見続けてほしいと思います。
この映画の本当に素晴らしいところは、通り過ぎる人や脇役の人でさえも、服装が完璧だということ。
大学内でのスポーツのユニフォーム、新入生歓迎での燕尾服の装い、全てのシーンが美しい。
ケンブリッジの学生生活の中での装いは、貴族階級の豊かな服装を見ることができます。
もう一つの舞台はスコットランド。わたしの大好きな街、エディンバラです。
もうこのシーンは、私の理想郷以外の何者でもありません。
エリックのツイードのスリーピースを纏ったカントリールックがとても格好いい。彼が初めに着ているスーツは、ツイードでありながらウエストコートをダブルにしています。しかしそれを野暮ったく感じさせないのは、彼のスタイルの良さからきていると思います。
その次に着ている彼のグレーのツイードのスリーピーススーツもとても格好いいです。
ツイードは決して、体格がいい人だけが似合う素材ではないことをエリックは教えてくれました。
このスーツスタイルで、ベストの一番下のボタンを閉めているのが不思議に思われた方もいらっしゃるかと思います。この一番下のボタンを閉めるようになったのは、1930年代からでした。この映画の舞台は1920年代のため、当時はまだ下のボタンを開けるという着方がなかったのです。こういった時代背景までしっかりとおさえて洋服を着せているところも流石です。
この映画では、日常的に着るリネン、ツイードの見聞を広げることができます。
エリックが妹に胸中を打ち明けるシーン。撮影場所はエディンバラのカールトンヒルでしょうか。
この時エリックが着ているコートに注目しましょう。まさしくスコットランドの匂いを感じるコートです。太畝のヘリンボーン柄、素材はツイードです。ダブルのラグランで、襟の形が珍しいコートです。このゆったりとしたサイズ感がとても格好いいです。
しかもコートの右肘をみますと、なんと糸がほつれて穴が空いているではありませんか!これはわざとなのか、狙ってやったのか、定かではありませんが、まるで、ツイードとはこう着るものだ!と無言で語っているようです。
余談ですが、中盤からのシーンである、エイブラハム、エリック、アンディ、それぞれの練習風景があまりにも違いすぎるのがとても面白いです。
愚直に早さを求めるために練習するエイブラハム。
自然の中をただひた走るエリック。
遊びだと言い切り、優雅に美しくハードル越えの練習をするアンディ。
男性一人一人の個性を際立たせるための演出なのでしょう。それぞれのキャラクターに色がついて、みんなを愛することができる作品です。
これで終わってしまうとただのファッション映画か?と思われてしまいますので、追記しますと、この映画には宗教の話も深く組み込まれています。
ユダヤ教、キリスト教、国のためか、自分の信仰を守るか、正義とは何か。
余談ですが、コーチのサム・マサビーニ役のイアン・ホルムは、2020年の6月、そしてエイブラハムズ役のベン・クロスはコーチを追うように、同じ年の8月にこの世を去っています。
最後に一ネタですが、オープニングの海岸を走るシーンでの学生たちが着ているTシャツは、ジョンスメドレーのものだそうです。
主張をせずとも美意識を追求するあたり、やはりこの映画は本物です。
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