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第3章 ジャケット
ウエストコート(ベスト)
ベストの歴史
「ベスト(Vest)」という表現は主にアメリカで使われることが多く、英国では一般的に「ウエストコート(Waistcoat=胴着という意味)」と呼ばれています。また、フランスでは「ジレ(Jilet)」と呼ばれています。本当はウエストコートと呼び続けたいのですが、あまりにもベストという呼び名が普及してしまっているため、ここではベストと呼ぶことにします。
ベストの起源を調べていくと、13~14世紀の「プールポアン」という服に行き着きます。元々軍服の護身着として使用され、やがて一般市民の胴着へと変化していきました。袖の付いたものが元々の形であったのですが、1870年頃に現代のスリーピース・スーツの装いが定着し、現代の形へと近づいていきました。
サミュエル・ピープスは1666年10月8日の日記にこのようなことを記しています。
「昨日、国王陛下より新しい服装についてのお定めがあり、今後とも変更の意思はないとおっしゃった。それはわたしにはようわからない。なんでもヴェストと称する代物であるらしい。」
前年1665年、ロンドンではペストが大流行し、1666年にはロンドン大火に見舞われました。
当時の国王チャールズ二世は、宮廷生活や国家の贅沢な振る舞いが、神の逆鱗に触れたと信じたのです。
それを機に、目まぐるしく変化する豪華絢爛なフランス・モードを捨て、流行に左右されない落ち着いた服装を採用しようと、ペルシャ・モードに注目しました。
初めの頃のヴェストは、腿のあたりまで丈があり、素材はシンプルで、下着を隠す形のものでした。
対岸のフランスでは、ルイ十四世は自らヴェストを着用することなく、召使いたちに着用させました。
しかしヴェスト宣言をした4年後には、この新しいスタイルはヨーロッパ中の貴族たちのファッションに定着することになったのです。
しばらくすると、元々の意図であった節約の意識はどこかに消え去り、ヴェストは紳士服のなかで最も装飾的なものへと変化を遂げていきます。
自らは着ないとしていたルイ十四世は、その後806個もの宝石を付けたヴェストを誂えたそうです。
ヴェストが今のような形である、ウェストコートになったのは、18世紀のことです。
18世紀といえば、ダンディズム創世記。男らしさを誇る風潮が起こり、ウェストが見えるほど短い丈になりました。
襟付きか、襟なしか
ベストで選べるデザインとして、最も印象が変わるのが襟があるかないかだと思います。
襟が付いている方がクラシックなものとされています。
そのため、わたしは今までずっと自分で仕立てるベストには襟を付けていました。
お客様には、恰幅が良い方に襟付きを薦めますと、胸元のボリュームが出過ぎてしまいますので、襟なしにしておりました。
このように、
ですが、この襟有無問題に終止符を打ってくれた方がいたのです。それが白州次郎。
彼のお嬢様がお話しをする機会があり、そこで次郎さんの装いのことについて色々とお話を聞かせていただく機会がありました。
そこでお嬢様は、次郎さんは60歳になって、ようやく襟付きベストが着られるって言って、ヘンリープールでスーツを仕立てていた。
というお話しを聞かせていただきました。
これはきっと、氏の持論ではなく、ケンブリッジで貴族の息子たちと交流したときに、上流階級の着こなしのいろはを色々と教えてもらったのではないかと思いました。
この話を聞いて以降、わたしは自分の作るベストに襟を付けていません。
持論を振りかざすこともいいとは思いますが、ここは歴史に倣う方がいいと思いました。
襟付きベストはR60というわけでございます。
ベストのデザイン
デザインは5~6個の前ボタンを付けた襟無しのシングルブレステッド型が基本的な形で、ダブルブレステッド型やラペル付きのものとなると、よりクラシックな色が強くなります。前ボタンは5個より6個のほうがよりクラシックです。胴着という位置づけであったため、下着であるシャツはなるべく見えないほうがいいという考えの元です。ポケットは箱型のものが左右に2つずつ付き、身体にぴったりフィットしていることが理想とされています。
ベストを正しく着こなす
スリーピース・スーツのミスコーディネートで一番多いのが、ウエストコートの下前からタイが出てしまうことだと思います。もしタイが長過ぎてどうしても出てしまう場合は、応急処置として、ベストの中で折り返してしまうと出てくることはありません。トラウザーズの中に大剣と入れたとしても、すぐに出てきてしまいます。
トラウザーズの節でも書きましたが、理想的なスリーピースの装いにベルトは不必要です。ベストの裾からベルトのバックルが見えてしまっているのは本当に美しくありません。もしそれでもということでしたら、バックルを少しずらし、金具が下から見えないようにしましょう。
また、スリーピースでタイを結んでいない人もたまに見かけますが、これは絶対にやめていただきたいです。
ウエストコートのVゾーンには、タイやアスコットタイなど、首元を締めるものが必要です。もしタイをしたくないのであれば、ウエストコートも着ない方がいいでしょう。雑誌やTVに出てるような方々の、非日常的な着こなしをあまり参考にしないほうがいいです。
また、スリーピースにはボタンダウンシャツを合わせないということも覚えておいてください。
ですがこれに関しては国毎のスタンスがあるので、すべてではありません。アメリカではセミワイドにダブルカフスのシャツを着ていると、英国気取りかと冷笑される場面もあります。アメリカのスタンダードはボタンダウンシャツであり、それはスリーピース・スーツの場合でもそれを合わせるのが正統派と呼ばれることもあります。アメリカとヨーロッパ、それぞれの世界観を逆なでしないように上手に取り入れ、気前よく着飾って愉しみましょう。
最終編集2024年 5月
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