ディナージャケットを華麗に着こなす

日本ではあまり着る機会がないと思われているディナージャケット(タキシード)ですが、もし生涯で3度でも着る機会があるのであれば、仕立てた方がいいと言われています。しっかりと保管しておけば一生涯着ることができますし、サイズを調整すれば次の代へと引き継いでいくこともできます。
わたしはこのタキシードの仕事が最も気合の入る仕事であり、わくわくする仕事です。結婚式の機会にオーダーをしていただくことが多いですが、一度きりで終わらぬよう、式が終わった後もタキシードを着ていけるようなライフスタイルを一緒に考えるのがとても好きです。

タキシードはアメリカで呼ばれている名称であり、イギリスでは“ディナー・ジャケット(Dinner Jacket)”とよび、フランスでは“スモーキング(Smoking)”とよばれています。英国風に、ここではディナー・ジャケットとよびたいと思います。

コーディネイトはほぼ決まっています。なので、何も悩むことはありません。笑
ディナー・ジャケットの下には、ウイングカラーかセミワイドカラーの白シャツに黒のボウタイ、中にはVゾーンの低いウェストコート(ベスト)か、もう少しくだけた印象を出すならカマーバンドを巻き、白か黒のブレイシーズ(サスペンダー)を使用します。靴はエナメル素材のプレーントゥかオペラパンプス、もしくは表革のストレートチップでもOKです。


エナメルは夜会でレディーとダンスをする際、靴墨でお相手のドレスの裾を汚さないためにと選ばれていました。
余談ですが、エナメルは別名「パテント・レザー」とよばれていますが、この名称は実は、特許を得た革ということから付けられています。
アメリカのニュージャージー州にある革のなめし業者が、表面をニスで仕上げる方法を1813年に考案しました。その後1819年に特許を取得しました。このことから今なお「パテント(特許)・レザー」とよばれているのです。

 

冬の期間はコートが必要ですが、くれぐれもトレンチコートやナイロン素材のコートのような、カジュアルなコートは合わせないでください。ディナージャケットには、黒基調のシンプルなチェスターフィールド・コートが合います。

ディナー・ジャケットを着こなす一番のコツは、とにかく着る機会を増やすことです。極端な話をいえば、家で毎日のようにディナー・ジャケットを着る時間を作ると、誰よりも早く完璧に着こなせる日がくるでしょう。
たとえば結婚式が近づき、ディナージャケットが完成したとします。それを本番まで着ずにとっておくのか、それとも何回かでも着て、どこか出かけてみるのか。どちらがいいでしょうか。着慣れた様子というのは、周りに安心感を与えます。

こんなにも凝り固まったルールがあるディナー・ジャケットですが、元々はくつろぎ服でした。いつの時代も着心地と威厳は相反するもので、より簡易的に後退していくのが時代の流れです。モーニング・コートやイヴニング・コートを見ると、このような威厳のある美しい洋装に身を包むことのない今の時代に、何だか物悲しさを感じます。失われていく文化を楽しみながら、ディナー・ジャケットに身を包むのも良いでしょう。

スーツを普段着ているときは懐古的な感覚はわかないと思いますが、ディナー・ジャケットを全て揃えてしっかりと着ると、何だか現代社会に生きているような気がしなくなる空気が漂います。ぜひ、華麗にフォーマルウェアを着こなせる大人になりましょう。

もしディナージャケットなんか作っても着る機会がない、または恥ずかしくて着られないということでしたら、通常のスーツスタイルで、できるかぎりフォーマルに見える仕立てにするということもできます。
仕様はシングルのピークド・ラペルで、ボタンは1つボタンがいいでしょう。素材はモヘアの入った光沢感とハリのある生地か、高番手(糸の細い)の生地を使います。色は黒でもいいですが、「ミッドナイト・ブルー」なんか素敵です。
ちなみにミッドナイト・ブルーは本来、夜間照明のもとでかぎりなく黒に見える紺のことをいいます。昔の染色技術では、黒が黒として見えないことがあり、深い紺に染めたほうが美しい黒に見えるということからはじまったものです。ウインザー公が1920年代に着用したことから流行したといわれています。
トラウザーズのすそはもちろんシングルです。スリーピースで仕立ててもいいですが、パーティなどでの着用をメインとするなら、ツーピースで仕立てて他の柄のベスト(オッド・ベスト)を着用するとより洒落感が出ます。夜のパーティならカマーバンドをしてもいいでしょう。そこにボウタイまで合わせると、もうほとんどディナージャケットに見えてきます。
ドレススーツとして、活躍する場面は大いにある一着になります。

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